2016/03/11

岐阜/飛騨の野菜を東北に送り続ける 高山在住の被災者

2016年3月11日 中日新聞
http://www.chunichi.co.jp/article/gifu/20160311/CK2016031102000026.html

東日本大震災の後、高山市に避難している東北の被災者たちが、飛騨産の野菜を福島に届けている。その中心は、福島第一原発事故を受け、二〇一一年に福島県浪江町から移り住んだ主婦、五十嵐浩子さん(32)。地元に残った主婦仲間から聞いた「安心な野菜を子どもに食べさせたい」との声がきっかけだ。今では飛騨の人たちも野菜を持ち寄ったり、善意の寄付金を寄せたりして、支援の輪が広がっている。

飛騨産の野菜が並ぶ高山市内の産直施設。五十嵐さんがネギやシイタケを買い物かごに入れていく。「人気はキノコや山菜。福島の自生のものだと、放射性物質の量が分からないから」



高山での生活が三年を過ぎた一四年六月、五十嵐さんは、福島市に住む友人の遠藤直美さん(33)から「できれば子どもには県外の野菜を食べさせたい」と電話で打ち明けられた。市場に出回る福島産の野菜の放射性物質は、基準値以下と分かっていても不安、と。

五十嵐さんは、高山で暮らす被災者の会「みちのく結心(ゆうしん)会」の代表で、会として月一回、野菜を送ることに。当初は会員有志が費用を出し合ったが、昨夏からは趣旨に賛同した人たちの寄付で賄えるように。農家から規格外の野菜を譲られることもあり、一回で送る野菜が五十人分になることもある。

遠藤さんのもとには、二月下旬にも、飛騨から野菜が届いた。子どもを持つお母さんたちに配った遠藤さんは、取材に「県外産はたまに売られるが、値段が高い。本当にありがたい」と話した。

ただし五十嵐さんは、この活動を続けていいものか迷うこともある。念頭にあるのは、全国から野菜を取り寄せて福島の人に配っている同県二本松市の住職、佐々木道範(みちのり)さん(43)が、震災五年を機にやめることだ。「必死に除染している福島の農家の妨げになってもいけない」と。

「風評被害を助長するかもしれないし、そもそも偽善かもしれない」と五十嵐さん。それでも、三人の息子の母親として「不安に思うお母さんがいる限り、野菜を送りたい」と思っている。

浪江町の自宅のある地区は、来年三月にも避難指示が解除される見通しだが、故郷に戻るつもりはない。「新しい故郷」となった飛騨の野菜で、福島の主婦を一人でも多く安心させたい。それが今の願いだ。
(清水裕介)

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