2016/03/11

自主避難の命綱、あと1年 住宅無償提供打ち切り 支援続けるフリーライター・吉田千亜さんに聞く


2016年3月11日 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160311/ddm/010/040/007000c

孤立無援、声を聞いて

自主避難者の支援を続けるフリーライター、吉田千亜さん(38)に課題を聞いた。
          ◇
原発事故が起きた2011年の末、埼玉県にも多くの母子避難者がいることを知った。全く知らない場所に子どもだけ連れて避難するのはどんなにつらいだろうと思い、交流会を開くようになった。

彼女たちから話を聞き、あまりの孤立無援に驚いた。二重生活で支出は増えるのに、東京電力が自主避難者に支払う賠償は乏しい。子どもを被ばくさせたくないのは当然。好きで避難したはずもないのに「勝手に逃げた」と偏見にさらされ、心を閉ざすようになる。

福島県いわき市から幼い娘と避難した母親は、みなし仮設住宅の古い雇用促進住宅に入った。警戒心から周囲との接触を避け、入浴時も電灯をつけず、男性のような服装で外出した。福島県に残る夫と不仲になり、離婚する母親も多い。貧困はさらに深刻になる。

この5年間、自主避難する母親の状況は悪くなる一方。汚染は続くのに、国や福島県が「線量は下がった」「復興が進んでいる」と強調すると、彼女たちは「復興の妨げ」のように扱われる。

みなし仮設住宅の提供打ち切りが発表されて、自主避難の母親たちは打ちひしがれている。諦めて福島県に帰ることを決めた母親もいるが、「納得して帰る人などいない」とこぼした。周囲の無理解を恐れ反対を訴えることすら難しい。「ルポ母子避難」には十数人の母親が登場するが実名はわずか5人。彼女たちの追い込まれた状況を物語る。

国や福島県は仮設住宅から避難者を追い出し、早く事故を終わらせたいのでしょう。改めて彼女たち一人一人の声に耳を傾けて考え直してほしい。【聞き手・日野行介】


吉田千亜さん=内藤絵美撮影

■人物略歴
よしだ・ちあ
埼玉県在住。出版社勤務を経てフリーライター。2012年春から原発事故で首都圏に自主避難する母親たちの交流会を主宰し、母親たちの活動を伝える情報誌「ママレボ」の発行に携わる。近著に「ルポ母子避難−消されゆく原発事故被害者」(岩波新書)。

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