2016/03/11

高知で服飾作家に転身 新天地での挑戦「個」の復興に 福島・郡山から移住、松井浩子さん


2016年3月11日 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160311/ddl/k39/040/532000c

東日本大震災から11日で5年。松井浩子さん(54)は福島県郡山市の家族を離れて単身高知市に避難したのを機に服飾作家となり、新天地で第二の人生を切り開いている。「高知のおかげで新しいビジョンが見えてきました。福島の被害はあまりにも大きかったけど、一人一人が『個』の復興を果たす力になりたい」と意気込む。【錦織祐一】

松井さんは神戸市長田区出身で、日本獣医畜産大時代に知り合った福島県出身の夫(53)と結婚し、郡山に移住。1男1女に恵まれた。阪神大震災(1995年)では「伯母は山の手で被害はありませんでしたが、私は一面燃え上がる新長田の街をテレビで見ていました」。

2011年3月10日、福島県立医科大の看護学生だった長女・詩歩さん(25)が宮城県内で車で自損事故を起こしたため、長男・淳喜さん(27)は友人らと翌11日に釣りに行く予定を取りやめて事故車を取りに行っていた。「あの事故がなかったら、十数人が津波で死亡していました」

東京電力福島第1原発事故で、夫と詩歩さんは激務にのみ込まれた。「家の庭で放射能を測ったら1・48マイクロシーベルト。避難区域内より高いんですよ。それでも『大丈夫』と言われる。もう何も信用できませんでした。限界でした」。両親は愛媛県出身。遠い親戚がいる高知への避難を思い立ち、詩歩さんも「私たちは大丈夫だから、お母さんの好きにしていいよ」と背中を押してくれた。

13年4月、「まるで別世界」の高知市に移住。母の影響で「生活の一部」だった裁縫を生かし、リネン(麻)やオーガニックコットン(有機栽培の綿)など天然素材を生かした天然服工房「プチ・プラム」を開いた。天然素材にこだわったのは「力のある素材は服作りに重要だし、土に戻れる。永久に土に戻れないごみを出し続ける原発に、潜在的な抵抗があったのかも」。

高知オーガニックマーケットに出展する松井浩子さん。
高知のおかげで新しいビジョンが見えてきました」=高知市池の県立池公園で

ネットショップは少しずつ売り上げを伸ばし、毎週土曜に県立池公園(高知市池)で開催されている「高知オーガニックマーケット」では人気店に。詩歩さんも服飾作家を目指して3カ月、松井さんの下で修業。服が福島で人気のジェラート店に認められ「雑貨を扱ったカフェを開きたい」と、ともに「『個』の復興」を目指す。

5月には入野海岸(黒潮町)の「Tシャツアート展」に詩歩さんと出展する松井さん。「高知では毎年新しいことに挑戦できる。東北には手仕事の伝統が脈々とあり、高知とつないで新しい文化をつくりたいですね」

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