2016/03/09

第2部/2 解禁延期続く「中禅寺湖マス」 復活に向け生態調査へ/栃木

2016年3月9日 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160309/ddl/k09/040/017000c

マス釣りの聖地として長く太公望に愛されてきた中禅寺湖(日光市)。釣るだけでなく、食材としても貴重な観光資源として地域に恩恵を与えてきた。湖畔に軒を連ねる土産店や飲食店の看板メニューは、もちろんマス料理だ。

「釣ってよし、見てよし、食べてよしの3拍子がそろっていたのに」。中禅寺湖の漁業協同組合専務理事、鹿間久雄さん(65)は肩を落とす。店で提供されるマスは今、全て漁協が育てている養殖ものだ。一部の店は「自分で釣り、自分で調理して提供するのがこだわりだった」とマス料理を取りやめている。

東京電力福島第1原発事故の影響は、県内の河川や湖沼に広く及んだ。国は2012年4月、食品に対する放射性物質濃度の規制値を、当初設定した暫定値の1キロ当たり500ベクレルから同100ベクレルに引き下げた。サンプル調査でこの数値を上回った場所の魚は持ち出したり食べたりできない。

国の引き下げ方針を受け県は同年2月、ヤマメから1キロ当たり106〜248ベクレルの放射性セシウムを検出した粟野川(鹿沼市入粟野)など3河川を抱える4漁協に対し、渓流釣りの解禁延期を要請。同年3月には中禅寺湖で採取したニジマス、ヒメマスなどから新しい基準を上回るセシウムが検出され、こちらも解禁が延期された。

しかし「釣り人に背を向けたくなかった」と、鹿間さんは当時を振り返る。釣った魚を放す「キャッチアンドリリース」を条件に、例年の解禁日から1カ月遅れで区域と時間を限定して解禁にこぎ着けた。釣り客が魚をこっそり持ち出さないよう監視員も配置した。決して心からは納得できない解禁。それでも、釣り客は「マス釣りはおれの人生の一部」と涙を浮かべて鹿間さんの手を強く握ってくれた。

あれから4年。県内で今も解禁延期が続くのは中禅寺湖だけとなった。魚のセシウム濃度がなかなか下がらない原因の一つに、湖の水深がある。河川は大雨などによって水量が増すと放射性物質を帯びた泥が下流に流される。しかし、中禅寺湖は水深163メートルと深く、泥が湖底にたまったままとどまっている。県生産振興課は「自然に委ねて状況を見るしかない」と語る。

しかし、鹿間さんは他にも理由があるとみている。「濃度が下がりにくい原因は、キャッチアンドリリースにあるかもしれない」。せっかく釣ったマスを湖に戻すから、セシウムが蓄積され続けるのではないか、というのだ。

また、問題はセシウム濃度だけではない。キャッチアンドリリースの影響か、中禅寺湖では魚食性のブラウントラウト、雑食性のニジマスなどが大型化している一方、小型のヒメマスやワカサギが激減している。

中禅寺湖漁協は5月から県などと協力し、マス類に標識を付け、遊泳ルートやどのようなエサを食べているかなどを調べる。生態を知り、対策につなげる考えだ。

趣味やスポーツとして釣りを楽しむ人は今も訪れてくれるが、足が遠のいたままのなじみ客も少なくない。「このままでは問題が解決しない。検証すべき時期が来た」。“3拍子”そろった中禅寺湖マスの復活をあきらめるつもりはない。

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