2016/03/06

自主避難者「いないこと」にされる不安


2016年3月6日 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160306/k00/00e/040/100000c

「私たちのような自主避難者は、『いないこと』にされてしまう」。東日本大震災と福島第1原発事故(2011年3月)後、福島県南相馬市から京都府木津川市に娘2人と自主避難している福島敦子さん(44)は語気を強めた。

福島県は昨年、自主避難者への住宅無償化を17年3月に打ち切ると発表した。自主避難者への唯一とも言える公的支援が消滅することになる。これにより、 経済的に苦しい人は福島の自宅に帰還せざるを得なくなることが予想される。「帰還者が増えると、見かけだけは被災地の復興が進んだように見られてしまう。 帰還しない自主避難者の実態も見えなくなる」と危惧する。

毎日新聞と関西学院大災害復興制度研究所などが行ったアンケートでも、近畿に避難する人の約6割が行政に求める支援に「家賃補助の継続」を挙げた。

福島さんは放射線の影響を懸念して11年4月、当時小学生だった長女亜美さん(14)=中学3年、次女嵯都(さと)さん(13)=同1年=と避難した。 現在、京都府に紹介された築30年を超えた府の教員住宅に住む。母子家庭のため、財団法人の嘱託職員として働く福島さんが一家の大黒柱だ。 

避難先の住宅で言葉を交わす福島敦子さん(右)と亜美さん(中央)、嵯都さん母子
=京都府木津川市で、加古信志撮影 

12年秋、ストレスが原因とみられる消化器の病気で手術と入院を経験した。健康不安を抱える中、亜美さんの高校進学を控える。今の状態で住宅費がかかると生活は厳しい。しかし、放射線量が事故前のレベルに戻らない中、福島への帰還は今のところ考えられない。

状況が厳しい人はたくさんいる。福島さんは、京都地裁で係争中の国と東京電力に対する損害賠償請求訴訟で、原告団の共同代表を務める。他の原告と接し、 自主避難者は避難の長期化で、経済的にも精神的にも疲れ切っていると感じた。「国や県は私たちに『自立』を促すが、時給800円ほどのパートで子育てして いる母子避難者も多い」と明かす。

アンケート結果では、27%の避難者が非正規の職に就いていると回答した。母(父)子避難が3割を超え、経済的な苦境を訴える人もいた。

昨年12月、福島さんは支援者らと、住宅無償化の打ち切り中止を求めて福島県庁を訪れた。「福島では、みんな普通に生活しています」と話す県の担当職員 の言葉が忘れられない。県内各地に、除染で出た汚染土が入った黒い袋が仮置きされ、積み上がる。「多くの人が不安をのみ込んで暮らしているだけ。決して普 通の生活ではない」と話した。【柳楽未来】

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