2016/03/09

群馬/福島・いわきから前橋へ自主避難 人とのつながりが支え

毎日新聞 2016年3月9日 地方版
http://mainichi.jp/articles/20160309/ddl/k10/040/115000c

東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から11日で5年になる。被災地から県内に避難しているのは2月末現在で1189人。月日の経過とともに避難者 の状況は多様化し、5年を経た今、被災者の生活環境も県内の自然環境も「復興」には程遠い。現場を訪ね歩いた。【山本有紀】

県内支援団体、避難者の9割と会えず

前橋市の丹治幹夫さん(62)は2011年7月、前橋市内で住宅を購入し、福島県いわき市から自主避難した。日中は自宅の作業場でワープロ修理の仕事に 没頭する。気軽に連絡できる友人は県内にはいない。「いわきにいた時は仕事に詰まったら電話して飲みに行っていたが、ここではできなくなった」と寂しそう につぶやいた。

県内では、避難者を支援する「ぐんま暮らし応援会」の復興支援員5人が避難者の自宅を戸別訪問しており、避難者同士が自由に語り合う「集いの会」も各地 で開催している。12年9月に活動を開始し、15年度に福島県の委託事業となった。行政の避難者アンケートに回答した人や、借り上げ住宅に住む人を訪問で きるようになったことで、避難者リストは3倍の約370世帯に増えた。しかし、日中は不在も多く、リストの約9割とは会えていない。ある復興支援員は「会 えても深刻な話はしにくく、雑談で終わってしまうことが多い」と打ち明ける。

関東の支援団体が3日、東京都内で「広域避難者支援ミーティング」を開いた。ぐんま暮らし応援会の中村正信さん(67)は「集いの会の集まりが悪くなっ ており、参加者がゼロの時もある」と明かした。参加者は4〜5人程度で同じ顔ぶれになりがちという。県内に避難中の50代女性は「5年もたつと境遇も違っ てくる。避難者が求めているのは、お茶を飲みながら楽しくおしゃべりすることではなく、住宅や子供の健康といった生活の根本的な支援ではないか」と話す。

神奈川県では昨年6月、避難者自治会が設立され、今後の問題を毎月話し合っている。茨城県には避難者中心のまちづくり勉強会やママ会がある。他県の取り 組みを聞いた中村さんは「群馬でも目的やテーマを決めた集まりを考えていく必要がある。当事者団体がほとんどないのも課題」と指摘する。

前橋市の丹治さん宅には復興支援員が来ない。妻杉江さん(59)は「来た時から家も仕事もあるから、避難者ではなくて移住者のような扱い」と漏らす。

一方で、全国からワープロ修理の依頼が来る。メーカーが製造から撤退し、修理部品も尽きてきたワープロだが、今もコミュニケーションや創作活動に活用さ れている。利用者の中には、病気や障害で文字を書くのが難しい人もいる。丹治さんが修理を終えると視覚障害を持つ人が「これでやっと文字が書ける」と喜ん でくれた。「これからも修理業を続けてくれますか」と聞かれることも多い。丹治さんは「ワープロを通しての人とのつながりが心の支えになっている」と話 す。

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