2016/06/02

屋内汚染 原発距離と比例せず

2016年06月02日 河北新報

東京電力福島第1原発事故で発生した放射性セシウムによる屋内の汚染度合いは、放射性物質を大量に含んだ放射性プルーム(雲)の通り道では、原発からの距離に比例しないことが、東北大大学院薬学研究科の調査で分かった。屋外で測定した放射性物質の濃度とは必ずしも一致しない結果となった。
 
調査は2013年7月~15年1月、薬学研究科ラジオアイソトープ研究教育センターの吉田浩子講師(放射線防護)が実施した。
 
福島県内の避難指示区域で木造家屋を中心に調査ポイント2653カ所で粉じんを採取。時間経過による放射性物質の減衰を考慮し、事故のあった11年3月時点の推計値を出した。
 
1平方センチ当たりの放射性セシウム濃度は、いずれも中央値で原発から1.6キロ地点が7.99ベクレル、4.2キロ地点が1.87ベクレル、9.3キロ地点が0.27ベクレル。原発から離れるほど低くなった。
 
原発から34.8~42.6キロ離れている福島県飯舘村は事故で高い空間線量を観測。だが今回調査では、村内991カ所のうち75%に当たる744カ所で屋内の放射性セシウム濃度が0.01ベクレル以下だった。
 
吉田講師は「屋外の空間線量が高いから屋内も高いと思うのは間違い」と説明。一方で「避難指示が解除されても、屋内の粉じんを放置すると被ばくの恐れがある」と注意を呼び掛けた。




 避難指示区域家屋内における放射性セシウム汚染
~汚染レベルは原発からの距離と相関

2016年5月30日 東北大学
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2016/05/press20160530-01.html

東北大学大学院薬学研究科ラジオアイソトープ研究教育センターの吉田浩子講師の研究グループは、福島県飯舘村、南相馬市小高区、双葉町、大熊町、富岡町などの避難指示区域の家屋の実態調査により、放射性セシウムによる表面汚染密度の頻度分布には明らかな地域差があり、汚染レベルは原発からの距離と関係のあることを示しました。さらに、大熊町、双葉町、富岡町の原発に近い住家では、表面汚染密度は距離の二乗に反比例していることを示しました。

本研究の成果は、英国の科学雑誌Scientific Reportsに、平成28年5月23日付けで掲載されました。

詳細(プレスリリース本文)


平成 28 年 5 月 30 日
報道機関 各位 東北大学大学院薬学研究科

【概要】
一般に住民は自宅屋内で過ごす時間がもっとも長いため、身近な屋内汚染は毎日の日常 的な被ばくに繋がる可能性があります。また、屋内は除染対象となっていないことから、 今後の住民の帰還にあたって屋内汚染の状況を知ることは重要です。しかし、福島原発事 故後にこの観点からの調査及び報告はまだありません。

東北大学大学院薬学研究科ラジオアイソトープ研究教育センターの吉田浩子講師は、福 島県飯舘村、南相馬市小高区、双葉町、大熊町、富岡町の避難指示区域の家屋について部 屋、屋根裏及び柱の表面汚染を乾式スミア(拭き取り)法によってサンプリングし、屋内 汚染の評価を行った結果、汚染レベルは原発からの距離と相関関係があることを明らかに しました。

図 1 は、地域ごとに放射性セシウムによる表面汚染密度の頻度分布を相対的に示したも のです。福島第一原発からの距離を括弧内に示しています。飯舘村では表面汚染密度の低 い数値に分布していますが、大熊町、双葉町や富岡町の原発により近い地域では高い数値 にまで分布が広がっており、汚染レベルは原発からの距離と関係のあることを示しています。

図 2 は、大熊町、双葉町、富岡町の原発に近い各住家における放射性セシウムによる表 面汚染密度(■)と福島第一原発からの距離の関係を示したものです。汚染レベルは原発 からの距離の二乗に反比例していることが示されています。一方、屋外・屋内の空間線量 率(それぞれ)には距離との相関関係は認められませんでした。




【詳細な説明】
本成果は、福島第一原子力発電所事故後の避難指示区域家屋内における放射性汚染につ いての初めての報告です。2013 年 7 月から 2015 年 1 月にかけて 95 軒の住家で 2,653 の試料を採取した調査結果をまとめています。

放射性プルームが通過する際に、降雨がないと乾性沈着が生じます。気密性の悪い(風 通しの良い)日本の木造住家では換気率が高く、プルーム通過時の住家への空気(エアロ ゾル)の入り込みにより屋内に乾性沈着が生じたと考えられます。調査はすべての部屋お よび屋根裏の平面並びに柱の垂直面を対象とし、人の掃除などの生活活動による影響を避 けるため、人の手が加わっていない箇所についてサンプリングを行っています。 

放射性セシウムによる表面汚染密度の頻度分布には明らかな地域差があり、原発からの 距離と関係のあることが示されました(図 1)。 

大熊町、双葉町、富岡町の原発に近い住家では、表面汚染密度(■)は距離の二乗に反 比例していることが示されました。(図 2)一方、屋外・屋内の空間線量率(それぞれ)には距離との相関関係は認められませんでした。屋外の空間線量率は主に放射性セシ ウムの湿性沈着によるもので、降雨とともに湿性沈着はまだらに生じたため原発から離れ た地域でも高い沈着が観察されましたが、これとは異なり乾性沈着は原発からの距離に伴 い減少していることを意味しています。なお、屋内の空間線量率は屋外の湿性沈着の影響 が強く、屋外の空間線量率のほぼ 0.4 の値となっています。また、図 2 では、原発に近い 地域の住家では湿性沈着(屋外の空間線量率)が低くても、屋内の汚染レベルが高い例が あることも示されました。 

本研究の成果は、英国の科学雑誌 Scientific Reports に、平成 28 年 5 月 23 日付けで掲 載されました。

 [論文情報] 
Hiroko Yoshida-Ohuchi, Takashi Kanagami, Yasushi Satoh, Masahiro Hosoda, Yutaka Naitoh, Mizuki Kameyama “Indoor radiocaesium contamination in residential houses within evacuation areas after the Fukushima nuclear accident“ Scientific Reports, 6, 26412 (2016) (doi:10.1038/srep26412).

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