2015/06/06

<原発賠償と分断>解除時期で不公平感/(下)一律終了



2015年06月05日 河北新報



「町と議会が要望したことが、ほぼ網羅された」
東京電力福島第1原発事故で全町避難し、避難指示解除に向けた準備宿泊中の福島県楢葉町。5月25日の町議会全員協議会で、松本幸英町長は与党の第5次提言案を評価した。

<「最低3年必要」>
提言は居住制限区域と避難指示解除準備区域を2017年3月までに解除するよう求めた。これに伴い月額1人10万円の精神的賠償(慰謝料)は18年3月に一律終了することになる。
町は慰謝料をめぐり、生活環境が整わないなどの理由で「解除から最低3年は必要だ」と主張してきた。終了時期に関し「避難指示解除から1年を目安」とする国の原子力損害賠償紛争審査会の指針が既に避難区域で適用されているため、早期解除に難色を示す声があることも理由の一つだ。
提言は解除が早い自治体ほど恩恵を実感しやすい。昨年4月に避難解除され、1年間で慰謝料を打ち切られた田村市都路地区東部はことし3月にさかのぼり、慰謝料が復活することになる。一方、解除の目標時期が18年3月に近い自治体からは「生活再建のスタートラインが異なるのに、終了時期が同じなのは不公平だ」と不満が漏れる。

<地域展望描けず>
17年3月以降の解除を目指す浪江町。「除染やインフラ復旧も進まないのに1年で打ち切られるのか」。町役場には町民から問い合わせが相次いでいる。
檜野照行副町長は「自治体ごとに実情は違う。個々の復旧状況に応じ、納得できる賠償を決めるべきだ」と訴える。時計店を営んでいた商工会長の原田雄一さん(66)は「小さな田舎で客とのつながりを大切に商売をしてきた。解除してもコミュニティーは容易に戻らない」とため息をつく。
早ければ17年4月の帰還開始を目指す富岡町。三春町の仮設住宅に避難する松本政喜さん(68)は帰還を心待ちにする一方、「解除後1年では元の暮らしには戻れないだろう」と地域の先行きを案じる。
一時帰宅する際、車で走る県道付近は急ピッチで除染が進み、廃棄物の黒い袋が日々増えていく。片や、自宅周辺の本格作業はこれからだ。「国は計画通り除染を終えられるのか。放射線量はどのぐらい下がるのか」と疑問を抱く。
同町の除染は17年3月の完了が目標で、提言が掲げる解除時期と重なる。解除準備区域だけの楢葉町に比べ、放射線量が高い居住制限区域も広範囲だ。慰謝料終了の18年3月までに帰町環境が整うかは不透明だ。
「提言では慰謝料を一律に支払うと言っているが不公平感がある。整合性を欠き、住民感情は一律にはなり得ない」。松本さんは自治体間の分断を心配する。

[慰謝料増額をめぐる訴訟・ADR]避難区域の住民が増額を求めて集団提訴や裁判外紛争解決手続き(ADR)を申し立てる動きがある。福島県浪江町の約1万6000人が参加するADRが最大規模で、一律5万円を上乗せする和解案が提示されたが、和解は成立していない。

福島県富岡町内で進む除染作業。
計画通り2017年3月までに完了するかは
不透明だ=2日、同町上手岡

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