2015/06/03
いのちを守る防災:原発事故避難 被ばく対策になお課題
2015年06月03日 毎日新聞 東京朝刊
http://mainichi.jp/shimen/news/20150603ddm013040017000c.html
原子力規制委員会は4月、原発事故時の住民避難の基本方針を定めた「原子力災害対策指針」を改定した。それを受けて、全国の原発立地県や周辺自治体が地域防災計画の見直しを進めているが、避難時の住民の被ばくの調査、防護はなお難題としてのしかかる。
●福島では大混乱
「1号機が爆発して(事故対応拠点として福島県内に設けられた)オフサイトセンター(OFC)の中も線量が上がってきた。避難住民の被ばくの有無を調べる『スクリーニング』の基準値もあっという間に引き上げられた」
長崎県の原子力対策担当参事監の海老根強さん(62)は福島第1原発事故直後の混乱した状況を振り返った。当時は内閣府原子力安全委員会の事務局職員として事故直後に福島県に向かい、大熊町に設置されたOFCで対応にあたっていた。
福島県などによると、事故前は除染をする基準は、スクリーニングで皮膚近くの放射線の測定値が1万3000cpm(cpmは1分間に検出した放射線の数を示す単位)を超えた場合となっていた。この値は、1歳児が放射性物質を吸引した場合、甲状腺で100ミリシーベルト被ばくする値に相当するとされる。一般人の年間被ばく許容線量は1ミリシーベルトとされている。
だが、2011年3月12日に福島原発1号機が水素爆発を起こし大量の放射性物質が放出されると、避難住民のスクリーニング現場は大混乱した。避難が優先となり、基準値は約10倍もの10万cpmにまで引き上げられた。実際に10万cpmを超える被ばくをした住民は確認されているだけで102人だったという。
規制委の原子力災害対策指針は、事故から1カ月以内で除染が必要となるスクリーニングの測定値を4万cpm超と定めている。この基準値について原子力規制庁の荒木真一原子力災害対策・核物質防護課長は「住民の目的は避難で、迅速さが優先される。福島原発事故の避難での反省が踏まえられている」と説明する。
「避難退域時検査マニュアル」も定め、被ばく後の対応について記述した。汚染箇所は主に髪の毛や靴などとし、水が確保できれば頭を洗い、着替えることで被ばく値はある程度下げられるとしている。再検査で4万cpmより値が下がれば避難を続ける想定だ。
だが、被ばくを前提とした避難であり、住民の不安は払拭(ふっしょく)できない。荒木課長も「福島原発事故のときのような混乱は訓練をすることで避けたい。だが被ばくした住民の不安を払拭するための対応は次のステップだ」と話す。
●除染も規定なし
原爆被爆地として原発事故対策にもいち早く取り組む長崎県。九州電力玄海原発の30キロ圏内に4市が含まれており12年6月、国の防災指針が示される前に地域防災計画を見直した。県の補正予算で玄海原発から30キロ圏内に放射線障害を予防する安定ヨウ素剤も準備。翌13年には「緊急被ばく医療マニュアル」も改定し、初期被ばくのための医療機関を現在の2カ所から3カ所以上に増やすことなどを定めた。
だが、それでも海老根さんは「放射能防護の対策は追いついていない」と不安を示す。医療チームの人員確保は不十分で、福祉施設などの避難計画も定められていない。
海老根さんは「玄海原発で事故があって県民が4万cpmを超す被ばくをした時、国が言うようにただ基準値を下回るまで除染すればいいわけではない。できるだけ低くなるまで除染することが望ましいが、その目標や方法を定めた(国の)規定はない」と指摘する。県の被ばく医療マニュアルではウエットティッシュで放射性物質を拭き取るなど、具体的な除染方法などを記載している。
吉田慎一・県危機管理課長は「長崎県は雲仙・普賢岳の被災や、福島原発事故への職員派遣の経験があり、被爆県として長崎大学の研究を踏まえた体制もある」としながら「福島原発事故では水が確保できない中で除染しなければならないという誰も対応が分からない事態になった。想定できない事態に備え、今はできるだけ多くの住民に放射線についての予備知識を広げる取り組みをしていくしかない」と話す。
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