http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201506/20150603_63015.html
東京電力福島第1原発事故をめぐり、自民、公明両党は5月末、居住制限区域と避難指示解除準備区域の住民らに対する精神的賠償(慰謝料)を2018年3月分まで支払うよう求める提言をまとめた。賠償期間が延びる自治体関係者からは評価の声が上がる一方、既に打ち切られた地域などには不満が広がる。「賠償格差」がもたらす「分断」の現実を見詰める。
原発半径20キロ圏かその外か-。見えない境界線が、避難指示が解除された今なお、住民の心をかき乱す。
<「口にできない」>
「慰謝料の支払いが延長されれば、地域内の格差がどんどん広がってしまう」
福島第1原発事故の避難指示解除準備区域(20キロ圏)が昨年4月に解除された田村市都路地区東部。21キロ地点に自宅がある第7行政区長の加藤与市さん(67)の心中は穏やかでない。
20~30キロ圏の緊急時避難準備区域は11年9月末に解かれ、東電は住民1人月額10万円の慰謝料を翌12年8月末で打ち切った。与党の提言に則せば、20キロ圏は3月で支払いが終了したが復活し、18年3月まで続く見通しだ。1人当たりの総額は事故後7年分の840万円に上る。
「賠償への不満はのどから出かかっているが、20キロ圏には同級生もいるから、口にはできない」
20キロを分ける見えない線は自宅からわずか数百メートル。原則として財物賠償の対象ではない。避難生活の間に朽ちた家の修繕は、ほぼ自腹を切った。腐った壁や床のリフォームに60万円掛かったが、東電は10万円の補償しか認めなかった。
2月には、旧緊急時避難準備区域の105世帯339人が1人1100万円の慰謝料などを求め、国と東電を提訴した。原告団副代表の宗像勝男さん(70)は与党提言に反発する。
「20キロ圏内も外も同じ生活空間だ。これ以上賠償の差が広がると、コミュニティーは壊れてしまう」
避難で仕事を変えざるを得なくなった人、子どもの転校に伴い都路に戻れない人、放射線の不安-。旧緊急時避難準備区域でも、821世帯2321人(2月末)のうち、今なお4割の住民が仮設住宅などに避難を続けているからだ。
<崩れる信頼関係>
昨年10月に村東部の避難指示解除準備区域が解除された川内村。同じく旧緊急時避難準備区域との賠償格差が横たわる。慰謝料が継続される見通しの20キロ圏内でも、地域のあつれきと分断を心配する声が上がる。
解除で自宅に戻った林業大和田亥三郎さん(80)は「20キロ圏外の知人から『お前たちはいいな』とうらやましがられ、本当に心苦しい。別の支援で格差を縮めてほしい」と打ち明ける。
村は20キロ圏外の住民を対象に1人10万円の地域振興券を発行し、格差是正に努める。提言は20キロ圏外への支援策を具体的に明示しておらず、遠藤雄幸村長は「住民感情はより複雑になり、住民同士、行政と住民の信頼関係も崩れてしまう。自治体への財政支援など制度設計が必要だ」と訴える。
[福島第1原発事故の精神的賠償] 避難区域の住民に東京電力が1人月10万円を支払う。長期の避難を強いられる帰還困難区域と福島県双葉、大熊両町の住民には700万円が上乗せされる。賠償額は交通事故の被害者に支払われる自賠責保険による補償額を参考にした。
福島第1原発半径20キロ地点。地域をまたぐ見えない境界線で 賠償格差が生じている=田村市都路町 |
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