以下、避難のブログより抜粋。
■ 5/23に開催された美味しんぼ集会の際の、西尾正道さん(北海道がんセンター名誉院長)の配布資料です。
<PDF版のダウンロードはこちら>
「不溶性の放射性微粒子が、鼻・喉頭・口腔・咽頭など広範囲に付着すると影響は強く出る」「鼻血を出しやすいキーゼルバッハ部位は空気中のダストが最も集積しやすい場所」などと指摘しています。
■ 5月23日の「美味しんぼ集会」での島薗進さん(上智大学神学部特任教授・グリーフケア研究所所長)の発言用のレジュメです。(PDFのダウンロード⇒ こちらです)
意義ある情報がたくさん含まれています。
結論部分の「被災者らが健康異変を感じているのであれば、それについてよく聞き、調べ、原因を探り、対策を立てるべきだ。それが医学・医療の倫理にのっとった態度だろう」という結論部分、本当にその通りだと思います。
ご一読ください。
「美味しんぼ」第604話「福島の真実」をめぐって
(『ビッグコミックスピリッツ』2014年5月12,19日合併号、26日号,6月2日号(4月28日、5月12,19日発売)
2014年5月23日@参議院議員会館
島薗進
(1) 事実の認識を避ける態度は科学からほど遠い
◇科学は理解できないがわけを知りたい事実の認識から始まる。そのような事実を否定するのは科学ではない。
◇アレクセイ・ヤブロコフ、ヴァシリー・ネステレンコ、アレクセイ・ネステレンコ『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』岩波書店、2913年4月(原著、2011年5月)。P.36-37。
◇低レベル放射線曝露と自覚症状・疾病罹患の関連に関する疫学調査プロジェクト班報告書
「低レベル放射線曝露と自覚症状・疾病罹患の関連に関する疫学調査―調査対象地域3町での比較と双葉町住民内での比較―」(平成25 年9 月6 日)◎岡山大学、広島大学、熊本学園大学の教員らによる共同調査。原発事故が起こる前とその後の健康状態について平成24年11月に質問票で尋ねた。福島県双葉町7,056人、宮城県丸森町733人、滋賀県長浜市木之本町6,730人が対象。あわせて8千余りの回答を得た。◎「双葉町、丸森町両地区で、多変量解析において木之本町よりも有意に多かったのは、体がだるい、頭痛、めまい、目のかすみ、鼻血、吐き気、疲れやすいなどの症状であり、鼻血に関して両地区とも高いオッズ比を示した(丸森町でオッズ比3.5(95%信頼区間:1.2、10.5)、双葉町でオッズ比3.8(95%信頼区間:1.8、8.1))。」p.3
◇広河隆一『暴走する原発』小学館、2011年、p.186~。
(2) 帰還政策
◇帰還政策が強引になされていることにつき、多くの疑問が投げかけられている。
◇強引な帰還政策のために、政府や福島県が真実を曲げたり、住民の健康不安を抑圧するような態度をとることは許されない。
「帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方」(平成25年11月20日)の背景「内閣府原子力被災者生活支援チームは昨年7月末、放射線医学総合研究所と日本原子力研究開発機構に個人線量計を使った線量調査を依頼した。「協力事業」という位置付けだったため入札は行われず、調査の実施も公表されなかった。依頼を受けた両機関は昨年9月、避難指示解除が予定されていた福島県田村市都路地区(今年4月1日解除)と川内村、飯舘村で、個人線量計とサーベイメーター(放射線測定器)を使って家屋の内外や農地、山林などの線量を測定。以前から活用されていた航空機モニタリングの推計値を含め、三つのデータを比較した。個人線量計を基にした年間推計値は、1日の生活パターンを主に屋外滞在8時間、屋内16時間と仮定してはじき出された。川内村の推計値は2・6?6・6ミリシーベルトで、一般人の年間被ばく限度の1ミリシーベルトをかなり上回った。支援チームの担当者は11月上旬、発表用資料を作成したが、個人線量計の推計値が「高すぎる」という意見が出て、公表されなかった。屋外を約6時間に変更して推計し直し、4月18日に発表された最終報告書では、川内村の数値は1・3?5・5ミリシーベルトに下がっていた。非公表の文書によると、支援チームは、以前別の地域で測定した個人線量計の被ばく線量が、航空機モニタリングの3分の1~7分の1だったというデータに着目した。田村市などの1市2村でも同様の結果が出たなら、個人線量計を使えば被ばく線量が航空機モニタリングに比べて一定の低い割合になることが実証できる。それがチームの「モチベーション(動機)」だった、という。「線量は低い」と強調して帰還を促す支援チームの思惑がうかがえる記述だ。期待した結果が出なかったため「この観点は事業の主な目的から外された」とも書かれているが、いずれも公表段階で全て削除された。支援チームが当初は避難指示解除準備区域が設定された6自治体で調査を要請していたことや、データ不足などから明確な結論を出せない部分が残ったとする記載も消えた。いずれも、支援チームが調査を尽くすより、早く結果を得ることを優先していたことを示唆する内容だ。原子力規制委員会は昨年9~11月に「帰還に向けた安全・安心対策に関する検討チーム」の会合を開いた。支援チームが調査を急いだのは、この会合に結果を報告するためだった。結局、調査したという事実すら伝えなかったが、検討チームは帰還住民が個人線量計を使って被ばく線量を管理することを提言し、政府方針として採用された。住民が不安を抱くような情報を伏せ、帰還促進に向けて結論ありきで政策が決められたと疑わざるを得ない。「記者の目:福島・個人線量の調査非公開」『毎日新聞』2014年05月22日
(3) 健康調査の問題
◇本年2月に明らかにされた以下の文書は、政府や福島県が健康調査・健康支援をきわめて限定的なものとしていることにつき、「十分な検査や調査を行い,その情報を国民に明らかにすることが重要である.健康支援策の具体的内容も重要であり,その拡充と意義の説明によって信頼が回復され,安定した生活感覚を取り戻すことができる」はずだと述べている。
◇健康状態について不安をもっている被災者に対して、「調べない・知らせない」姿勢をとり、不安を述べることを抑圧するような態度は、科学的にも倫理的にも不適切なものだ。
日本医師会総合政策研究機構・日本学術会議 共催シンポジウム共同座長取りまとめ(「福島原発災害後の国民の健康支援のあり方について」2014年2月22日@日本医師会講堂)東京電力福島第一原子力発電所事故後の健康管理に関して,日本学術会議は,東日本大震災復興支援委員会放射能対策分科会による提言「放射能対策の新たな一歩を踏み出すために─事実の科学的探索に基づく行動を─」において,住民健診・検診の継続実施体制の整備や医療体制の整備について,2012年4月に提言した.一方,日本医師会は,日医総研ワーキングペーパー「福島県『県民健康管理調査』は国が主体の全国的な"健康支援"推進に転換を」,2013年4月に発表するなど,健康支援について積極的に発言してきた.2013年10月に環境省に設置された「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」においては,日本医師会常任理事及び日本学術会議副会長が専門家として参画している.日本を代表する2つの学術専門団体が,こうした各々の取り組みを踏まえ,さらに連携を深め協力して国民への健康支援をはじめとする,東京電力福島第一原発発災後の対処のあり方について議論を深めるために,平成26年2月22日共催シンポジウムを開催した.共催シンポジウムにおける,各講演の内容及びパネルディスカッションでの意見を踏まえ,以下の6点を「共同座長取りまとめ」とした.1.国・福島県・東電,そして専門家・科学者は健康支援対策への信頼の回復を被災者は福島県だけでなく,隣接県を超え全国に広がっているが,被災者に対する国・県の健康支援は不十分であるとの声もある.それらの声に耳を傾け,不安の持たれている健康影響については,検査の意味を丁寧に伝えたうえで,十分な検査や調査を行い,その情報を国民に明らかにすることが重要である.健康支援策の具体的内容も重要であり,その拡充と意義の説明によって信頼が回復され,安定した生活感覚を取り戻すことができる.医師・保健師など専門家また科学者においても,解り易い合意に基づく助言を目指し,意見の相違が存在する時は解り易く説明する責務を持つ.2.東京電力福島第一原子力発電所事故の影響の科学的解明を事故後,政府,国会,民間の事故調査報告書が公表され,事故当時の状況が明らかにされてきた.しかしながら,これらは限定されたデータを基に作成されたという限界も否めない.一連の報告以降に,事故直後の周辺地域でのモニタリングデータや,ヨウ素の地表沈着量の推計値などが新たに公開されており,これらのデータに基づく初期被ばくの再評価を含め,事故後に蓄積されてきたデータや知見をもとに,事故の影響の一層の科学的解明を図るべきである.3.国・福島県・東電は生活再建の総合的な環境対策と地域づくりの支援を時間の経過による放射能の物理的減衰・自然減衰と除染の効果によって,放射線量が一定レベル以下に低下した地域については,避難指示の解除が検討されているが,帰還の選択をするか否かは個人の選択を尊重すべきであり,また,選択が可能な条件整備が必要である.避難指示による避難や自主的避難が長期化した中では,放射線に対する不安だけでなく,個々人の生活再建,コミュニティの復活,地域復興に係る課題にも総合的な対処が必要であり,国・福島県・東電・専門家・科学者は住民の不安に応えるための対話などを通じて,地域づくりの基礎となる信頼関係の再構築をすべきである.4.国の健康支援システム・汎用性のあるデータベースの構築を県域を越えた被災者や,廃炉作業員・除染作業員等も対象とした国の健康支援システムの構築と,さらに様々な健診データ等のデータベースを,被災者・廃炉作業員・除染作業員等の健康支援のために広く共有できる,例えば(仮)日医健診標準フォーマットのような汎用性を具備したデータベースを,構築すべきである.5.住民や作業員への健康支援・人的資源育成等のためのナショナルセンター整備を被災した住民や廃炉作業員の健康支援や,放射線汚染環境情報の集積,さらには緊急被ばく医療体制を整えるための人的資源育成等の,中心的機能を担うナショナルセンターを,いわき市における誘致要望にも留意し,設置すべきである.6.健康権の概念を尊重し長期的かつ幅広い視点からの健康支援体制の構築を経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約第12条第1項において,「全ての者が到達可能な最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利を有すること」,いわゆる「健康権」が認められている.健康権の概念に照らした,全国に散在する被災者を含め長期的かつ幅広い視点からの健康支援が必要である.命の視点,倫理的視点に立ち,原発サイトや除染で働く作業員の,労働作業環境の管理,健康管理・健康支援,緊急被ばく医療体制の整備,関係者の知識共有と理解,そして住民参加による政策やシステムづくりが必要である.
(4)「美味しんぼ」と分断の克服
◇荒木田准教授「福島で暮らさざるを得ない県民感情に配慮した表現を求めた。」朝日新聞5月21日。
◇作者も登場人物も政府が被災地居住者、避難者双方の健康支援、被害の補償等につききわめて消極的であること、ひたすら帰還を進めようとしていること、そしてそのことが真実を隠し、「調べない・知らせない」という態度と結びついていることにつき是正を求めている。
◇同時に、作者も登場人物も、被災者同士が考え方の違いによって対立したり、分断されたりしてしまっていることを悲しく思っている。
◇被災者らが健康異変を感じているのであれば、それについてよく聞き、調べ、原因を探り、対策を立てるべきだ。それが医学・医療の倫理にのっとった態度だろう。また、そのように住民の懸念に応じていくことで、政府や県も信頼を取り戻すことができるし、住民が判断に迷って対立したりする要因を弱め、住民の分断を克服する助けとなるだろう。
5月23日の「美味しんぼ集会」での海渡雄一弁護士の発言要旨です。ご一読ください。
2014年5月23日
美味しんぼ問題と表現の自由
海渡 雄一(弁護士)
今回の美味しんぼ問題が起きて、私はこのマンガの福島に関する特集全体を通読した。全体の中には福島の土壌改良の努力や農産物の放射線のレベルが厳しくコントロールされているとして、農産物の安全を訴えている部分もある。
にもかかわらず、鼻血の箇所と福島には住めないという表現だけが大きく取り上げられ、福島は急性障害が発生するような線量ではないとする専門家の意見が一気に巻き起こったところに、今回の動きの意図的なものを感ずる。
今福島で起きている甲状腺がんの増加やさまざまな体調の不良と放射線被曝が法的な因果関係があるかどうかという論争はチェルノブイリでの過去の例を見てもわかるとおり、決着がつくまでにかなりの時間がかかるだろう。そして、声高に意見を述べる人々の中に、権力を持ち、健康被害の事実を隠蔽したいと考えている集団が存在していることを忘れてはならない。
少し振り返ってみよう。3月11日にテレビ朝日の番組「報道ステーション」が「甲状腺がん」を特集した番組を放映した。その内容は、福島県で震災当時18歳以下の子ども約27万人のうち33人が甲状腺がんと診断され、原発事故との関連性を疑う家族を追った番組であった。
この番組自体は今福島県で発生している甲状腺ガンの原因について、結論を押しつけているわけではなく、議論のための基礎的なデータが不足している現状を指摘して、公正な論争が求められていると指摘したものであった。これに対して、3月12日に福島県立医大が、引き続いて3月18日頃、環境省が「見解」を公表した。「事実関係に誤解を生ずるおそれもあるので、環境省としての見解を以下のようにお示しいたします。」としたうえで、この番組のどこが間違えているかについて指摘するでもなく、このような報道をけん制するものであった。これに引き続くような形で、美味しんぼ問題が発生した。
私は、今回のバッシングのような意見表明をしている専門家に問いたい。なぜ、より深刻な甲状腺がんなどをふくむ福島の健康問題の全体を取り上げないのか。甲状腺がんについては、政府も明確には因果関係を肯定もしないが、否定もできていない。だからこそ、福島の健康問題の全体について、慎重にさまざまな見方が公表できる環境を守りぬく必要があるのだ。
自由で民主的な社会は、報道機関だけでなく、芸術家や一般市民も含めて、社会に関する事実や意見を自由に発表できることが根幹をなす。とりわけ、まだ意見が分かれていて、社会の中に意見の亀裂が生じているような問題については、このような意見の公表の自由を守ることができなくなれば、最終的な事実の確定さらにはこれに基づく公共政策の策定の過程にまで歪んだ影響を与える。表現の自由の侵害が民主政の根幹を脅かすというのはこのことだ。
過去の公害の歴史を見ると、足尾銅山でも、水俣病でも権力や大きな報道機関から多様な事実と意見発表の自由が脅かされ、住民と一部の専門家がこれと闘って事実を認めさせてきた歴史であることがわかる。
ひとりひとりの表現者が、みずからの感性で捉えた事実をそのまま表現できなくなった社会では、社会にとって大切なことが市民に伝えられなくなるおそれがある。今回の美味しんぼの問題は、この表現の自由の大切さを改めて私たちに気づかせてくれた。
いま、福島に暮らし続けている人々の気持ちは大切にしなければならない。しかし、今の線量では暮らせないと考えて自主避難している子どもたちとその家庭も多く存在している。低線量被曝の被害について、科学的に未解明な部分があることを認め、このような選択をそれぞれ尊重して、等しく支援していこうという考えが「子ども被災者支援法」によって確立されたはずであった。しかし、今の政府はこのようなバランスのとれた考えを否定し、帰還促進のために、安全性を重んずる考え方自体を否定し、これを抑圧しようとしている。
市民の知る権利を不当に制約する秘密保護法が制定された今、私たちはこれまで以上に、表現の自由のかけがえのなさを自覚しなければならない。日本国憲法の定める表現の自由が、戦争の惨禍を経て初めて日本国憲法によって保障されるに至った歴史的意義をふまえて、不断の努力によってこれを保持していかなければならない。美味しんぼの今後の連載が継続されること、再開されることを強く要望したい。重要な問題について発言の機会を頂いたことに深く感謝する。
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