2011/07/24

ECRR科学事務局長・クリス・バズビー氏の講演報告

私たち「子ども全国ネット」の初イベントとして、「ふくしま集団疎開裁判の会」らとの共催で開かれた「クリス・バズビー教授(ECRR科学事務局長)の講演会」が7月20日、千代田区立内幸町ホールで行われ、約130人の方々にお集まりいただきました。

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バズビー氏は、約1週間におよぶ日本滞在中、東京や千葉、会津、東京などで精力的に講演を行い、「毎時1マイクロシーベルトを超える地域に住む大人や子どもは退避すべき」と懸命に危機を訴えました。
以下、バズビー氏の講演の中から、いくつか要点をご紹介します。


■ICRPのリスクモデルより350~1000倍危険

バズビー氏は講演の中で、「日本政府が依拠しているICRP(国際放射線防護委員会)のリスク予測は、内部被ばくによる影響をほとんど考慮しておらず、ECRR(欧州放射線リスク委員会)が独自に疫学調査したリスク予測に比べると350~1000倍甘いという結果が出ている」と話しています。

では、なぜ世界がICRPの基準を採用しているかというと、原子力産業の圧力があるからに他なりません。

その証拠に、2009年3月までの20年間、ICRPの科学事務局長であったジャック・バレンティンは、辞任後の2009年4月22日の公開ミーティングで、「ICRPのリスクモデルでは、人間の放射線被ばくの健康影響を予測できない。なぜならいくつかの内部被ばくの計算ミスが900倍にもなっているからだ」と述べ、「公的なリスク機関はチェルノブイリの影響を考慮していないので、間違っている」と、いかに現在のリスク予測が甘いものであるかを、吐露しているそうです。


■今後、福島におよぶリスク

 では、ICRPのリスクモデルに基づき、日本政府が「居住してもよい」と定めている汚染地域に人々が住み続けることで、どのようなリスクが発生するのでしょうか。

バズビー氏は、「誰も移動することなく汚染がこのままこのレベルであるとすると、半径100㎞圏内に住む人のガン増加率は66%になり、10年以内に発症するでしょう」と、強く警告を発しました。
なぜなら、空間の放射線量が高いということは、それだけ空気中に放射性物質が浮遊しているということであり、その放射性物質を呼吸を通して体内に吸い込むことで、より内部被ばくの危険性が高まるからだということです。

バズビー氏は、福島第一原発由来による放射性物質で、どれだけ私たち日本人が内部被ばくしているかを調査するために、車のエアフィルターを用いて調査を行っています。車のエアフィルターは、人間の肺と同じように外気を吸い込んでいるため、内部被ばくをシミュレーションするために有効だといいます。バズビー氏は、「千葉・東京・福島(原発から約100㎞離れた地点)を走行した車のエアフィルターを調査した結果、いずれからもセシウム134,137が検出され、さらにプルトニウムとウランと思われるα線放出する放射性物質も発見された」と述べました。
検出された数値を見る限り、1960年代に行われた世界の核実験によって降り積もった核物質の量よりも、千葉県では約270倍、福島県では約1000倍多く排出されていることが読み取れたということです。


■今、私たちができること

 では、私たちは今後、どのようにこの事態に立ち向かっていけばよいのでしょうか? バズビー氏はいくつかの提言をしています。

1.1マイクロシーベルト毎時を超える地域に住んでいる人々の避難
1.水と食料は汚染されていない地域のものを摂取する
2.将来の補償裁判のために、髪の毛や爪のサンプルを採取しておく
3.原子力産業と政府に対して、被ばくによる健康被害の法的な補償行動をとる
4.独立科学者たちの協力を得て、福島調査基金を起ち上げる
5.初めから事故の影響を過小評価してきた科学者たちを告訴する


とくに、1.「1マイクロシーベルト毎時を超える地域に住んでいる人々の避難」についてバスビー氏は、「地面から1メートルのところで1マイクロシーベルトを超える地域に住んでいる人たちは、即時に避難すべき。もし居住し続けると、深刻な健康被害をもたらす可能性がある。また妊娠中の女性の場合は、胎児の生存や成長にも影響がおよぶ危険性がある」と、警鐘を鳴らしたうえで、「人々をこうしたところに放置しているのは、犯罪レベルに無責任だ」と、日本政府の対応を痛烈に批判しています。

 最後にバズビー氏は、「今こそ日本人が起ち上がり、世界の原子力政策にピリオドを打ってほしい。原爆被害国である日本だからこそ、新しい次の世界を創れるのだと信じている」と、エールを送り講演を締めくくりました。

 ***

福島第一原発の事故は、人類がまだ経験したことのない未曾有の原発事故だといわれています。だからこそ私たちは、過去のあらゆる事例に学び、チェルノブイリの惨状から目を背けることなく、十分にリスクを鑑みて行動することが求められているのではないでしょうか。

(文責:和田秀子)


110720 【自由報道協会】クリス・バズビー博士 記者会見の模様はこちら
http://www.ustream.tv/recorded/16118454


ECRRクリス・バズビー論文「福島の破局的事故の健康影響」日本語訳
Japanese Translation of ECRR Chris Busby's Paper "The Health Outcome of
the Fukushima Catastrophe"
http://peacephilosophy.blogspot.com/2011/07/japanese-translation-of-ecrr-chris.html


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