2015年04月23日 西日本新聞
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/164679
美しい棚田で知られる山口県長門市油谷(ゆや)。この地区に、北九州市門司区の元小学校教諭安岡正彦さん(60)が、米作りや竹細工を体験できる宿泊施設「農業小学校 耕人舎」を建設している。きっかけは東日本大震災後、福島県の小学生を油谷に招いたことだった。地元の海では泳ぐのを諦めていた子どもたちが海水浴をしたりして楽しむ姿を見て「いつでも集える場を」と一念発起した。5月下旬に完成する予定だ。
昨春に退職するまで30年以上、教壇に立ってきた安岡さん。油谷との出合いは8年ほど前、日本海に沈む夕日に照らされた棚田を趣味のカメラに収めようと訪れたのが最初だった。
過疎化と高齢化が進む油谷の田畑は、足を運ぶたびに荒れていった。「棚田を守ってきた人たちに代わって食い止められないか」。住民に相談すると、耕作放棄地を譲ってくれた。2009年からは毎週末、車で往復4時間かけて通い、中古の耕運機を購入して約1300平方メートルを耕した。
当初はイノシシやカラスに荒らされたり、マムシにかまれたりと失敗続きだった。見かねた住民が「ここでは私が先生やね」と水稲の基本から手ほどきしてくれた。おかげで翌年、米が実る。口にすると甘みや香りが段違いだった。「自分で作った食べ物のおいしさや、日々の食が生産者に支えられていることを子どもに知ってもらいたい」。そんな思いが芽生えた。
大震災後の12年夏、福島県郡山市で職員を務める知人を訪ねた。放射能の影響を心配し、運動会や水泳の授業を中止する学校もあると聞いた。「のびのびと遊べないなんて…」。そこで北九州市の教員仲間たちに寄付を募り、福島県いわき市の小学生5人を油谷に招待することにした。
計画は翌年の夏に実現した。子どもたちは民家などに宿泊し、竹を削って箸を作ったり、スイカを収穫したりして4泊5日の旅を満喫してくれた。さらに「好きなときにいつでも寄り合える場所があれば」と思い立ち、退職金で宿泊施設の建設を始める。骨組みは業者に頼んだが、壁や床の板は友人や住民の力を借りながら自ら打ち込んでいる。
完成間近の「耕人舎」は木造一戸建て。薪を燃やして沸かす風呂やいろりも備える予定だ。畑で栽培した大根で地元の名物「寒漬け」などを作って販売し、福島の子どもたちを招待する旅費に充てる計画もある。
教員時代、習い事に追われて遊ぶ時間のない児童たちを複雑な思いで見つめてきた。「命を養う農業を通じ、学校でできない体験をしてほしい。知識を詰め込むのではなく、体を動かして学ぶことは本来豊かで面白いんだと知ってもらえたら」。そう願っている。
18歳以下は年会費2千円、大人は同5千円で利用できる。安岡さん=090(9496)3698。
住民の力を借りて「耕人舎」の建設を進める安岡正彦さん(右) |
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