2016/07/13

福島の避難解除 住民の意向こそが大事

2016年7月13日 北海道新聞
http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/opinion/editorial/2-0067640.html

政府の原子力災害現地対策本部はきのうの午前0時で、東京電力福島第1原発事故で福島県南相馬市の一部に出していた避難指示を解除した。

対象人口は1万800人で、2年前に始まった避難解除で最も多い。政府と東京電力は古里に戻って生活する人たちのため、除染をはじめ生活環境の整備に全力を尽くさなければならない。

解除はこれで5市町村となる。政府は放射線量が高い帰還困難区域を除き、2017年3月までに福島県内の避難指示をすべて解除する方針だ。

しかし、放射線の影響や今後の生活への不安が拭えず、避難先から戻らない人や帰還をためらう人も少なくない。

スケジュールありきで帰還を促進しても、住民の不信を招くばかりではないか。住民それぞれの意向を尊重することこそが大切だ。

福島第1原発の北に位置する南相馬市は、小高区と原町区の一部に避難指示が出ていた。

今回の解除に合わせ、これまで制限のあった小高区の市立病院の診療時間は通常通りに回復した。仮設商業施設の準備も進んでいる。12日にはJR常磐線原ノ町―小高間も運転を再開した。

生活環境は整いつつある。

それでも、避難対象者のうち解除前に長期滞在する準備宿泊をしたのは2割だった。住民はそれだけ、帰還するかどうかを慎重に見極めているということだろう。

何より気がかりなのは、放射線の影響だ。

避難指示を解除したのは、住宅周辺などの放射線量が国の基準に収まったためだ。

しかし、森林や農地には今も数値の高い所が残っている。子どものいる家庭などに不安が根強いのはうなずける。

政府には、むやみに帰還を促すのではなく、こうした住民に寄り添う姿勢が必要だ。

古里での生活を軌道に乗せるには、医療、介護態勢の立て直しや農林水産業をはじめ産業の着実な再生が欠かせない。国や自治体の十分な支援を求めたい。

政府が避難指示解除を急ぐ姿勢からは、指示区域以外からの自主避難も含む避難者への賠償や生活支援を縮小したり、打ち切ったりする意図も透けて見える。

福島県の避難者は現在も約9万人に上る。帰還を働きかけるあまり、避難住民の生活を損なったり、帰還者と避難者の分断を招くことがあってはならない。

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