子供たちへの甲状腺検査をどうみるのか。原爆やチェルノブイリ事故の被曝者の治療に当たるなど被曝者医療に長年かかわり、国際甲状腺学会長も務めた放射線影響協会の長瀧重信理事長に聞いた。
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--福島の甲状腺検査をどう考えますか
長瀧 当初、検査でがんが見つかったとして原発事故による放射線の影響ではないかと心配された。しかし、福島の子供に見つかった結節(しこり)の大きさなどは、同時期に検査をした青森・山梨・長崎の3県約4400人の子供たちと変わらない。がんの発生率は3県では1例なので比較はできないが、今のところ福島の子供にがんが増えているという証拠があるとはいえない。一方で検査をすることで、本来なら放っておいても問題のないがんが見つかっている可能性はある。
--検査による過剰診断の弊害も指摘されている
長瀧 現時点で福島の子供たちの診断・治療が過剰かどうか判断することはできない。大人では無症状の人を検査しても甲状腺がんの死亡率に差がないことが分かっているが、無症状の子供を対象にした甲状腺検査は世界でも例がなく比較できないからだ。また、患者や家族が希望しなければ手術はできない。一般的にがんへの不安が強いと手術を選ぶ傾向がある。福島の場合、他の地域より不安が強く手術を選ぶ人が多い可能性はある。
--がんと診断され、原発事故の放射線影響を疑う人もいる
長瀧 放射線が原因でがんになったかどうかを疫学的に調べ、特に影響がない
と納得できるまでには数十年はかかる。ただ、原発事故後に測定された放射線の
値から推定される、個人の被曝線量を検討した「原子放射線の影響に関する国連
科学委員会(UNSCEAR)」は、福島の住民のがんや遺伝性疾患の発生率に
「今後、識別可能な上昇はない」と予測し、甲状腺がんもチェルノブイリのよう
な事態は考えなくてもよいと記載している。被曝による影響は、国際機関が行っ
ているように、線量から推定することも必要で、現状を正しく理解することが大
切だ。
2014年9月11日 産経新聞
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