カタログハウス
http://www.cataloghouse.co.jp/yomimono/150512/
安全・危険をよりよく考えるために
客観的なデータを残していきたい。
――全国各地の市民放射能測定室が参加している「みんなのデータサイト」の事務局長である石丸さんは、東京都の市民放射能測定室の代表でもありますね。
石丸 はい。福島第一原発事故後、東京でも放射能に対する不安を持つ人は多かったので、2011年の12月、東京都国分寺市に「こどもみらい測定所」を開設しました。測定依頼に来る方の多くは、小さい子どもを抱えたお母さんです。当初特に多かったのが、お米の測定依頼ですね。中には、「東北で農業を営む親戚が送ってきてくれたものなんですが、子どもに食べさせて大丈夫でしょうか」と、生産者に思いを寄せながら、子どもへの影響に不安を抱える方が多くおられました。
消費者と生産者は共に原発事故の被害者でありながら、健康影響への消えない不安と、放射能汚染地の産品に対するマイナスイメージへの不満によって対峙してしまうことがある。両者をつなぐ架け橋は、やはり測定データだと思うのです。もちろん、データを見て、その数字をどう判断するかは一人ひとり異なります。市民放射能測定室の役割は、その食品が安全か安全でないかをこちらが判断するというより、放射性物質と付き合わざるをえない現状の中で、客観的な判断材料をできるだけ多く提供していくことだと思います。
私が「こどもみらい測定所」を立ち上げたのと同じ頃、全国各地で放射能の影響を懸念した市民が自主的に測定室を開設し、それぞれがデータを蓄積していました。それらのデータを一つにまとめ、誰でも気軽に閲覧できるようにしたのが「みんなのデータサイト」です。現在、独自の測定精度検査をクリアした全国26ヵ所の市民放射能測定室が参加しています。
食品はすでに1万検体以上のデータを公開しています。食品別、産地別、測定日別に検索ができ、条件ごとに比較できます。検索結果は表で示され、セシウム134、137の値の他、測定機器、検出限界値などが確認できます。また、1万検体以上を測定し、データを蓄積していく中で、生育環境や作物の特性などによって、セシウムが検出されやすい食品はある程度特定できることが分かり、「みんなのデータサイト」上で「食物からセシウムが検出される主な原因の分類表」として公表しています。
福島第一原発事故の実態を捉えるには、
この1年が勝負です。
――「みんなのデータサイト」では東日本の土壌汚染マップを作成するという「東日本土壌ベクレル測定プロジェクト」を進めていますね。
石丸 はい。2014年の秋から、東日本17都県で実施しています。3・11後、東日本の広い範囲に放射性プルーム(放射性雲)が通過したことが分かっていますが、東日本全域の汚染度の指標となるものは、空間線量マップしか公開されていません。しかし、その土地の汚染を確実につかむためには、土壌の実測が不可欠なのです。
セシウム137の半減期は30年であり、汚染は長く続きますから、土壌の測定は長期的な対策をとるための一助となります。一方、セシウム134の半減期は2年で、高濃度に汚染された地域を除いては、徐々に測定が難しくなっています。未曽有の大惨事でありながら、放射能汚染の実態が記録として残せなくなるかもしれないのです。
1キロあたり100ベクレル以上のセシウム(セシウム134と137の合算値)が検出されると、本来ならば「低レベル放射性廃棄物」としてしっかり管理されなければいけません。しかし、東京の土壌からもその基準を超えるセシウムが検出されています。東京ですらそれだけの汚染があるのに、国は大規模な調査に踏み切ろうとしない。それどころか、福島県内のまだまだ線量が高い地域で避難指示を解除することにより、結果的に避難にかかる費用などの補償がほとんどない“自主避難者”を増やしたり、原発の再稼働を推進したりする姿勢からは、汚染をなかったことにしようという思いが透けて見えるようです。
私は、これから子どもや孫の世代に受け継がれていく各地の汚染度をきちんと確かめ、原発事故による放射能汚染の実態をデータとして残すことがとても大事であると思います。そのために、仲間の皆さんと今回のプロジェクトにチャレンジすることにしました。
――実際の測定は、どのような方法で行なわれていますか。
石丸 青森県から静岡県までの17都県で土壌採取に協力してくださる方を募り、各都県100ヵ所程度、各市町村5ヵ所ずつ土を採取して、事務局が指定した測定室に送っていただきます。
各地域の中でどこの土を採取するかは、基本的に採取者にお任せしていますが、事故による汚染をできるだけ正確に把握するため、雨どいの下などのセシウムが濃縮しやすいところや、すでに除染が行なわれたところなどは避けていただきます。また、地表から5センチの深さの土を1リットル強の容量で採取するなど、採取方法も統一し、科学的な比較ができるようにしています。採取された土は「みんなのデータサイト」に登録された市民測定室で測定し、結果は採取者に通知されると共に、サイト上でも順次公開していきます。ある程度データが蓄積されててきた段階でマップ化もされます。
私たちは、これから1年で1700ヵ所を測定することを目標にしています。2年目は、1年目に測定したデータを見ながら測定地点を増やし、土壌汚染マップとデータの充実化を図ります。
――プロジェクトには、どれくらいの費用がかかるのですか。
石丸 今後1年間の目標である1700ヵ所の測定にはおよそ450万円の費用が必要ですが、寄付や助成金などでまかなっていこうと考えています。また現在、クラウドファンディングも実施し、多くの方のご協力を募っています。
セシウム134の測定が難しくなるタイムリミットが迫るこの1年の間に、なるべく多くの採取・測定をしていけるよう、資金協力のお願いと同時進行で、プロジェクトも遂行していくことにしました。
データから浮かび上がる事実と向き合い、
3・11を日本を変えるきっかけにしたい。
――石丸さんは、事故後一貫して放射能汚染の実態をデータとして残そうと力を尽くされています。その原動力は何なのでしょうか。
石丸 私は、「こんなに汚染されてしまった」ということだけを声高に叫びたいのではなく、放射能の中で暮していかざるをえない人たちがたくさんいる状況の中で、事実をよく見極め、対策すべきは対策し、安心できることは安心できるようにしていきたいと思います。そのための情報提供の一つとして「こどもみらい測定所」では、食品・土壌の測定に加えて「ホットスポットファインダー」という高性能な空間線量計で福島県含む各地の線量を正確に捉え、空間線量マップとして公開する取り組みも行なっています。
しかし、測定によって見えてくるのは、その地域の人たちにつきつけられている大きな問題の中のごく一部に過ぎません。ある意味では事故の加害者の一端とも言える私たち東京の人間には、高濃度に汚染された地域で、事故による放射能汚染の被害がどのように暮しに影響しているかが見えづらい。福島県の子どもたちにとって、「ほうしゃのう」は日常用語です。子どもたちは「ほうしゃのうがあるからここでは遊んじゃだめ」「ほうしゃのうがあるから毎年(保養)キャンプに行くんだよ」などと話します。この状況で、本当に事故は収束していると言えますか?
客観的なデータを見せていくことで、そこに浮かび上がる事実と向き合い、対策できるようにしたい。そして、子どもにリスクを押し付けるような社会の在り方を大きく転換させたい。その思いが、放射能を測定し、データを残す活動の原動力になっています。子どもたちと未来のための「東日本土壌ベクレル測定プロジェクト」に、ぜひ多くの方にご協力いただければと思います。
石丸偉丈(いしまる・ひでたけ) 1972年、兵庫県生まれ。兼業主夫として家事や育児に励むかたわら、保育や教育関係の仕事に従事。3.11以降は、子どもを被ばくから守るための活動を開始する。2011年12月には、東京都国分寺市で市民放射能測定室「こどもみらい測定所」を開設する。現在までに、食品、土壌併せておよそ2000検体以上を測定。2013年より、全国各地の市民放射能測定室のデータを集約して公開する「みんなのデータサイト」事務局長を務める。
▼東日本土壌ベクレル測定プロジェクト
東日本17都県で土壌を実測し、およそ2年かけて放射能汚染マップを作成しようというプロジェクト。市民は、土壌採取の他、資金援助(寄付、クラウドファンディング)で協力できる。
http://www.minnanods.net/soil/
▼クラウドファンディングのご案内
https://moon-shot.org/projects/68
安全・危険をよりよく考えるために
客観的なデータを残していきたい。
――全国各地の市民放射能測定室が参加している「みんなのデータサイト」の事務局長である石丸さんは、東京都の市民放射能測定室の代表でもありますね。
石丸 はい。福島第一原発事故後、東京でも放射能に対する不安を持つ人は多かったので、2011年の12月、東京都国分寺市に「こどもみらい測定所」を開設しました。測定依頼に来る方の多くは、小さい子どもを抱えたお母さんです。当初特に多かったのが、お米の測定依頼ですね。中には、「東北で農業を営む親戚が送ってきてくれたものなんですが、子どもに食べさせて大丈夫でしょうか」と、生産者に思いを寄せながら、子どもへの影響に不安を抱える方が多くおられました。
消費者と生産者は共に原発事故の被害者でありながら、健康影響への消えない不安と、放射能汚染地の産品に対するマイナスイメージへの不満によって対峙してしまうことがある。両者をつなぐ架け橋は、やはり測定データだと思うのです。もちろん、データを見て、その数字をどう判断するかは一人ひとり異なります。市民放射能測定室の役割は、その食品が安全か安全でないかをこちらが判断するというより、放射性物質と付き合わざるをえない現状の中で、客観的な判断材料をできるだけ多く提供していくことだと思います。
私が「こどもみらい測定所」を立ち上げたのと同じ頃、全国各地で放射能の影響を懸念した市民が自主的に測定室を開設し、それぞれがデータを蓄積していました。それらのデータを一つにまとめ、誰でも気軽に閲覧できるようにしたのが「みんなのデータサイト」です。現在、独自の測定精度検査をクリアした全国26ヵ所の市民放射能測定室が参加しています。
食品はすでに1万検体以上のデータを公開しています。食品別、産地別、測定日別に検索ができ、条件ごとに比較できます。検索結果は表で示され、セシウム134、137の値の他、測定機器、検出限界値などが確認できます。また、1万検体以上を測定し、データを蓄積していく中で、生育環境や作物の特性などによって、セシウムが検出されやすい食品はある程度特定できることが分かり、「みんなのデータサイト」上で「食物からセシウムが検出される主な原因の分類表」として公表しています。
福島第一原発事故の実態を捉えるには、
この1年が勝負です。
――「みんなのデータサイト」では東日本の土壌汚染マップを作成するという「東日本土壌ベクレル測定プロジェクト」を進めていますね。
石丸 はい。2014年の秋から、東日本17都県で実施しています。3・11後、東日本の広い範囲に放射性プルーム(放射性雲)が通過したことが分かっていますが、東日本全域の汚染度の指標となるものは、空間線量マップしか公開されていません。しかし、その土地の汚染を確実につかむためには、土壌の実測が不可欠なのです。
セシウム137の半減期は30年であり、汚染は長く続きますから、土壌の測定は長期的な対策をとるための一助となります。一方、セシウム134の半減期は2年で、高濃度に汚染された地域を除いては、徐々に測定が難しくなっています。未曽有の大惨事でありながら、放射能汚染の実態が記録として残せなくなるかもしれないのです。
1キロあたり100ベクレル以上のセシウム(セシウム134と137の合算値)が検出されると、本来ならば「低レベル放射性廃棄物」としてしっかり管理されなければいけません。しかし、東京の土壌からもその基準を超えるセシウムが検出されています。東京ですらそれだけの汚染があるのに、国は大規模な調査に踏み切ろうとしない。それどころか、福島県内のまだまだ線量が高い地域で避難指示を解除することにより、結果的に避難にかかる費用などの補償がほとんどない“自主避難者”を増やしたり、原発の再稼働を推進したりする姿勢からは、汚染をなかったことにしようという思いが透けて見えるようです。
私は、これから子どもや孫の世代に受け継がれていく各地の汚染度をきちんと確かめ、原発事故による放射能汚染の実態をデータとして残すことがとても大事であると思います。そのために、仲間の皆さんと今回のプロジェクトにチャレンジすることにしました。
――実際の測定は、どのような方法で行なわれていますか。
石丸 青森県から静岡県までの17都県で土壌採取に協力してくださる方を募り、各都県100ヵ所程度、各市町村5ヵ所ずつ土を採取して、事務局が指定した測定室に送っていただきます。
各地域の中でどこの土を採取するかは、基本的に採取者にお任せしていますが、事故による汚染をできるだけ正確に把握するため、雨どいの下などのセシウムが濃縮しやすいところや、すでに除染が行なわれたところなどは避けていただきます。また、地表から5センチの深さの土を1リットル強の容量で採取するなど、採取方法も統一し、科学的な比較ができるようにしています。採取された土は「みんなのデータサイト」に登録された市民測定室で測定し、結果は採取者に通知されると共に、サイト上でも順次公開していきます。ある程度データが蓄積されててきた段階でマップ化もされます。
私たちは、これから1年で1700ヵ所を測定することを目標にしています。2年目は、1年目に測定したデータを見ながら測定地点を増やし、土壌汚染マップとデータの充実化を図ります。
――プロジェクトには、どれくらいの費用がかかるのですか。
石丸 今後1年間の目標である1700ヵ所の測定にはおよそ450万円の費用が必要ですが、寄付や助成金などでまかなっていこうと考えています。また現在、クラウドファンディングも実施し、多くの方のご協力を募っています。
セシウム134の測定が難しくなるタイムリミットが迫るこの1年の間に、なるべく多くの採取・測定をしていけるよう、資金協力のお願いと同時進行で、プロジェクトも遂行していくことにしました。
データから浮かび上がる事実と向き合い、
3・11を日本を変えるきっかけにしたい。
――石丸さんは、事故後一貫して放射能汚染の実態をデータとして残そうと力を尽くされています。その原動力は何なのでしょうか。
石丸 私は、「こんなに汚染されてしまった」ということだけを声高に叫びたいのではなく、放射能の中で暮していかざるをえない人たちがたくさんいる状況の中で、事実をよく見極め、対策すべきは対策し、安心できることは安心できるようにしていきたいと思います。そのための情報提供の一つとして「こどもみらい測定所」では、食品・土壌の測定に加えて「ホットスポットファインダー」という高性能な空間線量計で福島県含む各地の線量を正確に捉え、空間線量マップとして公開する取り組みも行なっています。
しかし、測定によって見えてくるのは、その地域の人たちにつきつけられている大きな問題の中のごく一部に過ぎません。ある意味では事故の加害者の一端とも言える私たち東京の人間には、高濃度に汚染された地域で、事故による放射能汚染の被害がどのように暮しに影響しているかが見えづらい。福島県の子どもたちにとって、「ほうしゃのう」は日常用語です。子どもたちは「ほうしゃのうがあるからここでは遊んじゃだめ」「ほうしゃのうがあるから毎年(保養)キャンプに行くんだよ」などと話します。この状況で、本当に事故は収束していると言えますか?
客観的なデータを見せていくことで、そこに浮かび上がる事実と向き合い、対策できるようにしたい。そして、子どもにリスクを押し付けるような社会の在り方を大きく転換させたい。その思いが、放射能を測定し、データを残す活動の原動力になっています。子どもたちと未来のための「東日本土壌ベクレル測定プロジェクト」に、ぜひ多くの方にご協力いただければと思います。
石丸偉丈(いしまる・ひでたけ) 1972年、兵庫県生まれ。兼業主夫として家事や育児に励むかたわら、保育や教育関係の仕事に従事。3.11以降は、子どもを被ばくから守るための活動を開始する。2011年12月には、東京都国分寺市で市民放射能測定室「こどもみらい測定所」を開設する。現在までに、食品、土壌併せておよそ2000検体以上を測定。2013年より、全国各地の市民放射能測定室のデータを集約して公開する「みんなのデータサイト」事務局長を務める。
▼東日本土壌ベクレル測定プロジェクト
東日本17都県で土壌を実測し、およそ2年かけて放射能汚染マップを作成しようというプロジェクト。市民は、土壌採取の他、資金援助(寄付、クラウドファンディング)で協力できる。
http://www.minnanods.net/soil/
▼クラウドファンディングのご案内
https://moon-shot.org/projects/68
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