2015年05月29日 毎日新聞 西部夕刊
http://mainichi.jp/edu/news/20150529ddg041100006000c.html
北九州市門司区の元小学校教諭、安岡正彦さん(60)が、山口県長門市油谷(ゆや)の棚田で米や野菜を育てながら命や社会について学ぶ「もう一つの学校」を開く。その名も「油谷尋常高等農業小学校」。拠点となる宿泊施設も響灘に沈む夕日が見える棚田跡に自ら建築中で、6月中旬の田植えから1年目の「授業」を始める。
農業小学校は元々「肥後の石工」「一つの花」などの作品で知られる児童文学者の故・今西祐行(すけゆき)さんが28年前に神奈川県の山村に開いた。不登校や校内暴力、いじめなどが社会問題化する中、都会の親子が月に1、2回通ってきて地元の子と共にお年よりの手ほどきで農作業に汗を流しながら仲間を作り、生き方を学ぶ場となっていた。
昨年3月まで北九州市の小学校で教えてきた安岡さんは、教科書に載った「一つの花」を教材に戦争体験者の聞き取りを子どもたちと行うなど平和教育に力を注いだ。その過程で知った今西さんの生き方に共鳴し、棚田の風景にほれ込んで通っていた油谷の耕作放棄地を借り、6年前から週末を利用して米や野菜を作ってきた。
担任した児童らを連れてきて芋掘りさせたり、油谷の僧侶に大根の寒漬け作りを教わり、学校のベランダで種から育てた大根を3カ月間干して漬け込むまでの全過程を子どもたちに体験させたり。一昨年には放射能を心配せずに思いきり体を動かしてほしいと、油谷住民の協力で福島県の小学生5人を4泊5日の保養キャンプに招待した。子どもたちの生き生きとした姿に触れる度、今の学校では学べないものを学ぶ「もう一つの学校」への思いが募り、定年まで1年残して昨春退職し、開校に向けて走り出した。
安岡さんがプロの手も借りながら自分で建てている宿舎は木造平屋。24畳の広間、8畳の土間にいろりやまき風呂付きで、今西さんが開いていた農業小学校の校舎名と同じ「耕人舎」と命名した。ここを拠点に、農家に提供してもらった棚田や耕作放棄地に米やソバ、芋や豆、野菜などを植え付け、草取りし、収穫して料理し、食べるまでを体験してもらう。夏には福島の子どもたちを招いて保養キャンプもする。
退職前、希望して貧困世帯の多い学校に勤務してきた安岡さんは、親から満足に食事を与えてもらえない子を毎日家まで迎えに行ったりしていた。今も連絡を取り合うそんな教え子たちにも声をかけるつもりだ。
「ここに来ると、学校では絶対見られない笑顔を浮かべ、みんな『また来たい』って言うんです。いろんな大人や子どもが集い、種から自分で育てたものを食べる喜びを味わいながら、命や社会のあり方を体で考える場にしたい」
「授業料」は大人年間5000円、子ども2000円。作業ごとの「開校日」はメールなどで知らせる。「生徒」は耕人舎に無料で泊まれ、収穫物を持ち帰れる。連絡先は090・9496・3698。
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