2015年5月27日 朝日アピタル
(朝日新聞 2015年5月27日掲載)
http://apital.asahi.com/article/story/2015052700026.html
肥満傾向の子どもの割合が日本で一番多い福島県。このまま続くと、子どもたちの体や心にどんな悪影響があるのでしょうか。肥満の怖さと、子ども自身や家族ができる対策を紹介していきます。
郡山市の小児科専門診療所、菊池医院に近所の男の子(10)が親に連れられてきた。東京電力福島第一原発事故を境に太り始め、2年後の体重は36・7キロ。身長に応じた標準体重(28・8キロ)より20%以上重い「肥満傾向」にあたる。
「家で何をしてるの?」
菊池信太郎院長が尋ねると、背景が浮かび上がった。原発事故後は放射線による被曝(ひばく)を避けるため外で遊ばなくなり、家でゲームをしたりテレビを見たりする時間が長くなった。家にいるぶん、おやつも増えた。その後も、外で遊ばない習慣が抜けない――。
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もともと東北や北海道は冬に屋外で運動しにくいこともあり、肥満傾向の子どもが全国平均よりも多かった。福島では原発事故後にその割合が増え、文部科学省の昨年度の調査では、5歳から17歳まで13の年齢のうち六つで全国1位だった。2位も三つ。被災3県でずば抜けて多かった。
その結果、医療機関の受診や経過観察、生活指導が必要な「メタボ予備軍」が増えた。新地町が町内の小学4年生と中学1年生の血液検査の結果を事故前後の10年と14年で比べたところ、小4では13・6%から32・6%に急増。中1も、17・0%から18・3%に増えた。
「身長が伸びている子どもの肥満傾向は4~6割、初潮が始まるなどして身長が伸びにくくなった子の肥満傾向は7~8割が成人後も続くとされている」と菊池さん。「保護者は、なるべく小さいうちに太らない生活習慣をつけるべきだ」
いったい、子どもの肥満は何がこわいのか。
「成人のメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)と同様、様々な生活習慣病や睡眠障害、けが、月経異常が起きるリスクが高まる」。専門医が集まる日本肥満学会で小児肥満症の指針づくりにかかわった原光彦・都立広尾病院小児科部長は警告する。
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一番多いのは、肝臓に脂肪がたまってフォアグラのような状態になる「非アルコール性脂肪性肝疾患」だ。肥満症と診断された子の3割ほど。疲れやすい、何となくおなかが痛い、といった症状が出る。悪化すれば肝硬変へ進み、肝臓移植しか治療法がなくなる。
糖尿病や高血圧になる子もいる。睡眠中に呼吸が止まって眠りが浅くなったり酸素不足になったりする「睡眠時無呼吸症候群」や、血管がつまる原因となる動脈硬化にもなりやすくなる。
若いうちに生活習慣病になると、合併症が起こるリスクも高まる。糖尿病を長く患えば腎不全や失明などの合併症が起きやすくなるし、高血圧や動脈硬化が長く続くと、心臓病や脳卒中が起きやすくなる。
肥満で心配なのは体のことばかりではない。いじめの原因になったり、子どもたちの自己評価が極端に低くなったりするおそれもある。菊池さんは「外見的には元気な子どもが大半。将来的なリスクを軽減するために、ぜひ一度、受診させて欲しい」と訴える。
【子どもの肥満に伴うリスク】
・糖尿病
・高血圧
・肝臓に脂肪がたまって生じる病気「非アルコール性脂肪性肝疾患」
・動脈硬化
・睡眠時無呼吸症候群
・月経異常
・けが
・こころの問題(肥満を原因とするいじめや、自己評価の低下)
・肥満関連がん(乳がん、大腸がんなど)
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