2015/09/11

4年半 災害にどう向き合う 野生生物、続く出荷制限 森林汚染面積は県の半分近く /群馬

2015年9月11日 毎日新聞
http://mainichi.jp/area/gunma/news/20150911ddlk10040188000c.html

県内各地から集められ、検査される野生獣肉
=玉村町の県食肉衛生検査所で2011年12月9日
◇セシウム循環 除染計画なく
東日本大震災から11日で4年半。今度は北関東の各地が記録的な大雨に見舞われ、津波のような濁流に家屋や車両が次々に流された。茨城県や栃木県ほど大きな被害がなかった県内でも、防災や治水の取り組みが改めて問い直された。一方、東京電力福島第1原発事故の影響で、県内の森林で捕獲されたイノシシやニホンジカは依然として全県で出荷制限され、野生のキノコや山菜も一部地域で出荷自粛が続いている。災害は、遠い過去の話ではなかった。

吾妻郡で捕獲したイノシシを食肉やサラミ、コロッケなどに加工してきた「あがしし君工房」(中之条町折田)は、2012年秋から休業が続いている。県内のイノシシは原発事故の影響で、国に出荷停止を指示されたからだ。

JAあがつまが管理・運営していた工房は、厄介者のイノシシを特産品に変える施設として好評だった。特にイノシシ肉の鍋「あがしし鍋」は冬場の観光の目玉。震災後の12年1月も四万(しま)温泉の18旅館が、冷凍保存していた事故前の捕獲分を提供した。しかし、13年には底を突いた。中之条町の担当者は「冷凍設備や道具の一部はすでに処分しており、加工場はただの荷物置き場になっている」と落胆した声で話す。

環境省は12年7月、森林の汚染面積を算出。県内の「汚染状況重点調査地域」は福島県に次ぐ面積で、30万ヘクタールを超えると推計された。県面積約63万ヘクタールの半分近い。民家、農地、公園などを除くエリアは具体的な除染計画もなく、この4年半、手つかずのままとなっている。

福島県の森林や渓流でモニタリング調査を続けている大手信人・京都大教授(生態系生態学)は「森林に降った放射性セシウムの大半は森にとどまっている」と話す。セシウムは、土壌の粘土粒子に吸着した状態で川から流れ出ることがある。ただ、大手教授らの調査地域では、降り注いだセシウムが1平方メートルあたり10万〜30万ベクレルと推定されているのに対し、森林から河川への流出量は年間で約330〜670ベクレルだけだったという。

除染も流出もなければ、セシウムは森林内を循環することになる。大手教授は「腐葉土からセシウムを吸い上げるキノコや山菜はもちろん、草木や虫を栄養にする野生動物のセシウム濃度も高い。ただし現段階では、食物連鎖を上位に進むに従って濃度が高まる『生物濃縮』は起きていないようだ」と説明する。群馬県が公表しているイノシシやニホンジカの検査結果は、ばらつきが大きく、事故後の4年半で上がりも下がりもしてない傾向がみられる。

出荷自粛が続いていた赤城大沼と榛名湖のワカサギは今月、ようやく持ち帰り可能となった。事故から4年半を経て基準値(1キロあたり100ベクレル)を安定的に下回るようになったためだ。湖沼と違って陸上の野生動物は動き回るため、全県一括で出荷制限の対象となっている。県自然環境課の担当者は「毎月、県内各地からイノシシ、シカ、クマなどを集めて検査しているが、今でも大体3割は基準値を超えている。継続的に1キロあたり100ベクレルを下回る状況になるまで地道に検査を続けるしかない」とため息をついた。【尾崎修二】
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◆規制対象の主な動植物◆
<野生獣肉>
◎イノシシの肉 県全域
◎クマの肉 県全域
◎シカの肉 県全域
◎ヤマドリの肉 県全域

<キノコ、山菜類>
◎キノコ(野生) 沼田市、安中市、長 野原町、みなかみ町、東吾妻町、嬬 恋村、高山村
○タラノメ(野生) 高崎市(旧倉渕)
○コシアブラ(野生) みなかみ町
○原木シイタケの乾燥物 高崎市、 沼田市、渋川市、富岡市、中之条町、 高山村、東吾妻町、みなかみ町
○タケノコ(野生のマダケのみ) 渋 川市(旧渋川市、旧小野上村)、みな かみ町
 ※地中に植わっている一般的なタケノコ(モウソウチク)は規制なし

 ◎は国による出荷制限指示、○は県による出荷自粛要請(10日現在)

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