2016/02/21

【原発事故の賠償】自主避難者の救済拡大を

2016年02月21日 高知新聞
http://www.kochinews.co.jp/?&nwSrl=352201&nwIW=1&nwVt=knd

東京電力福島第1原発事故の影響で、福島県から京都市内に自主避難した家族が、失業や精神疾患の損害賠償約1億8千万円を東電に求めた訴訟の判決があり、京都地裁は計3千万円の支払いを命じた。

自主避難者に対する東電の賠償責任が認められた判決は初めてとみられる。

避難者の補償をめぐっては、避難指示区域などの住民と、自主避難者との間に大きな格差があることが指摘されてきた。司法が、自主避難者の救済に道を開いた判決といえるだろう。

自主避難者にはさまざまな事情の人がおり、補償交渉も難しい側面があろうが、苦しい生活を強いられている人は少なくない。救済が進むことを望む。

住民の損害賠償請求は、東電との直接交渉が大半を占め、次いで文部科学省の原子力損害賠償紛争解決センターの裁判外紛争解決手続き(ADR)による処理が多い。

センターは、裁判より迅速な解決を目指し、半年程度で和解するのが通例だが、自主避難者は避難指示区域の住民などに比べ、少額の賠償額になりやすいという。東電や国の原子力損害賠償紛争審査会の中間指針が定めた賠償基準がハードルになっているためだ。

判決では、40代の夫が、避難後に発症した不眠症やうつ病を「原発事故が主な原因の一つ」と認定し、夫婦がそれぞれ求めていた就労不能による損害も事故との因果関係を認めた。夫婦への慰謝料もADRより大幅増となる額を算定し、賠償総額はADRで示されていた約1100万円の約2・7倍となった。

提訴から約2年半を要したとはいえ、裁判所がADRを大きく超える賠償額を命じた意味は大きい。

これまで、直接交渉やADRで低額の和解額をのんできた自主避難者がいる。今後、同様の訴訟やADRの判断にも影響する可能性があるだろう。

避難者が受けた影響や事故との因果関係はさまざまなケースがある。しかし、補償をめぐるこれまでの交渉の在り方や認定の基準は画一的ではなかったか。判決はそこにも一石を投じている。

間もなく原発事故発生から5年を迎える。福島県によると、昨年10月末現在で、避難区域外から県内外への自主避難者は推計で約1万8千人いるという。

避難の態様は多種多様だろうが、原発事故さえ起きなければ、住み慣れた地を離れなければならないことも、不安な日々を送ることもなかったはずだ。

事故後、損害賠償の経費など政府が計画する東電への支援は総額9兆円に上る。一方で、東電が先月発表した2015年4~12月期連結決算の純利益は前年同期比87・9%増の3382億円に達している。

この実態からも、東電には避難者とより誠実に交渉し、真摯(しんし)に賠償に当たることを強く求める。


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