2015年6月16日毎日新聞
http://sp.mainichi.jp/shimen/news/20150616ddm002040168000c.html
東京電力福島第1原発事故で避難者に無償提供されている応急仮設住宅のうち自主避難者分は2017年3月末で打ち切られることになった。政府が進める福島復興の加速と避難者の帰還促進策に歩調を合わせた形で、避難者は帰還か移住か判断を迫られる。福島県は「家賃補助など新たな支援を実施したい」としているが、具体的な内容はこれからで、依然として延長の要望が強い避難者の納得を得られるかは分からない。【日野行介、小林洋子】
◇支援策未知数「現状は生活保護のみ」
打ち切りの対象になる自主避難者について、福島県は低所得者などが民間賃貸住宅に入る場合の家賃補助や公営住宅の確保などを検討するとしたが、担当者は「あと2年弱あるので詳細な制度設計は今後検討したい」と述べるにとどまり、避難を続けたい人の支援につながるかは未知数だ。
アパートなどを利用した「みなし仮設住宅」を含む応急仮設住宅を出た強制避難者や自主避難者の取れる方法は、復興公営住宅に入居▽賠償で住宅購入▽自宅に戻る▽転居−−の四つ。
福島県などは避難者向けの復興公営住宅を県内で4890戸整備する予定で、昨秋には一部で入居も始まった。福島復興再生特措法では、復興公営住宅への入居資格について、国の避難指示を受けた避難者(強制避難者)とだけ定める。応急仮設住宅と違い家賃がかかるが、当面は東電の賠償で補填(ほてん)する。だが、福島県は運用で、基本的に大熊町、双葉町など線量が高い自治体からの避難者に入居を限定。強制避難者でも既に避難指示を解除されたり、解除が予定されたりしている自治体の避難者は基本的に応募できない仕組みだ。
一方、東電の不動産賠償における自宅購入でも、双葉、大熊両町と「帰還困難区域」(年間累積放射線量50ミリシーベルト超)からの避難者については、新たな住宅購入にかかった費用が一定の範囲で上乗せされる。しかし、同じ強制避難者でも、既に避難指示が解除された地域や解除が予定される地域からの避難者については、自宅の改修への賠償の上乗せなどはあるが、帰還が前提となっている。
自主避難者向けの「受け皿」はさらに乏しい。自主避難者を支援するための議員立法「子ども・被災者生活支援法」(12年6月成立)に基づき、復興庁と国土交通省は昨年10月から、全国の自治体が持つ公営住宅への入居要件を緩和し、自主避難者が応募できる施策を始めた。しかし、住宅事情の厳しい首都圏では公営住宅の抽選倍率は高く、法律改正もせず自治体に条例改正も求めなかったため実効性が疑問視されている。周知も不十分で、書類の申請は半年間で約50件にとどまる。国の関係者は「生活に困窮した自主避難者が避難を続けたい場合に使えるのは現状では生活保護しかない」と明かした。
◇背景に県内帰還促進 対象者の把握が課題
内堀雅雄福島県知事は15日、報道陣に「これから2年間で区切りを、という国の考え方もある。安心して帰れる環境を作れるかが重要」と述べた。背景にあるのは帰還促進政策だ。政府が12日に改定した福島復興指針では17年3月までに県内の避難指示解除準備区域と居住制限区域について避難指示を解除し、その1年後に月額10万円の精神的損害の賠償を終わらせる方向性を示しており、打ち切りが国の方向性に合わせた判断であることを強調した。
だが、災害救助法に基づく応急仮設住宅(みなし仮設住宅を含む)は自然災害を想定した制度で、県境を越えて避難者が発生し、線量がなかなか下がらない原発事故を想定していない。
福島県は事故当初、県内の応急仮設住宅への入居者を強制避難者に限定したため、自主避難者の多くが県外に逃れ、避難先の都道府県が公営住宅や民間賃貸住宅の空き部屋を借り上げたみなし仮設に入った。
こうした自主避難者について福島県は「約9000戸、2万5000人程度」と推計するが、正確には明らかになっていない。南相馬市など自治体内で避難指示区域が線引きされるなど厳密な分類ができないためだ。今後、打ち切りの対象を決め、退去を促す作業が必要になるが、県の担当者は「避難先の自治体に全てやらせるわけにいかず、今後の課題」と頭を悩ませる。
国が避難指示解除を見込んでいる地域の扱いも課題だ。楢葉町では4月から解除に向けた3カ月間の準備宿泊に入っており、国が解除への理解を求めているが「まだ線量が高い」などと反発がやまない。国は「自主避難者と同列にはできない」(竹下亘復興相)とするが、県の担当者は「厳密に言えば避難指示の内と外しかなく、デリケートな問題だ」と頭を抱える。
年間約280億円(15年度県予算)とみられるみなし仮設の家賃を最終的に誰が負担するかも決まっていない。東電が自主避難者分の支払いに難色を示し、事故後4年たっても請求できていないのが現状だ。
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