2014/12/03

福島から避難なお12万人、帰還ためらう


福島県の復興のいま
 福島県川内村の廃校跡。機械部品メーカー「菊池製作所」(東京都八王子市)の工場で、従業員が介護ロボットの部品などをつくっている。大半は原発事故で失業した住民だ。

 2011年3月の東京電力福島第一原発事故で、全村民約3千人が一時的に避難。原発周辺自治体の中では放射線量が低く、政府が東部に設定した避難指示区域を除き、事故後1年で帰還が可能になった。帰還後の雇用確保のため、経済産業省と村が補助金を出して区域外にコンビニや植物工場などを誘致。菊池製作所の工場もその一つで、12年11月末に操業を始めた。

 「川内村は復興のフロントランナー」。安倍晋三首相は政権発足直後の同年12月、村を訪れてそう持ち上げ、この工場も視察した。当時は従業員が35人いた。だが、この2年で原発事故前に農業をしていた住民ら16人が「仕事になじめない」などの理由で辞めた。求人をしても応募が少ない。「そもそも帰還が進んでいない。まだ放射能を気にする人が多い」。佐藤健一工場長(50)は悩む。

 政府は今年10月、放射線量が解除要件の年20ミリシーベルトを下回ったとして、村東部の大半の避難指示を解除した。だが、村には政府が除染の長期目標とする年1ミリまで下がっていない場所が残る。道沿いには追加除染の作業員や汚染土を入れた袋が目立つ。帰還は旧避難指示区域内で2割、区域外で6割にとどまる。

 田村市都路(みやこじ)地区も一時、避難指示区域を含む全域で住民が避難した。今春に避難指示が解除されたが、区域内の帰還は4割、地区全体でも6割弱だ。

 武田義夫さん(73)は原発から22キロの都路地区にある自宅に週末だけ妻(67)と帰る。平日は長男夫婦と小学生の孫2人と、車で50分離れた同市船引地区で暮らす。「原発の汚染水漏れも止まらず、事故は収まっていない。都路で安心して子や孫と暮らすにはまだ時間がかかる」。避難生活が始まった3年余り前から寝付きが悪くなり、就寝前に睡眠薬を飲んでいる。

 「除染は福島の復興にとって一丁目一番地」。原発事故以降、佐藤雄平前県知事は退任する11月まで除染を政府に求め続けた。避難指示区域外で、避難者を多く受け入れる福島市や郡山市などでも線量が年1ミリを上回る地点がある。

 原発から60キロ離れた福島市内の小学校。校庭の一角の地中50センチより下には、数百立方メートルの汚染土が保管されている。11年夏、市は児童の被曝(ひばく)を減らすため、線量の高い校庭の表面を5センチ削り、持って行き場がなかった汚染土を埋めた。放射線は土やシートで遮られ、地表の線量は国の長期目標をクリアしている。

 当時、市の小中学校PTA連合会長だった秋山智樹さん(51)は6年生の次女を通わせていた。次女は中3になったが、進学先にも汚染土が埋まっている。秋山さんは「学校は子どもが集まるだけでなく避難所にもなる。汚染土は真っ先に運び出すべきだ」と話す。

 県によると、県内33市町村の1175カ所で、小中学校や幼稚園などが計約31万立方メートルの汚染土を保管している。各自治体は、第一原発の西側に環境省が建設する除染廃棄物の中間貯蔵施設に運び出すよう政府に迫る。だが、安倍政権は避難指示解除後も帰還が進まない地域の汚染土の搬送を優先させる方針だ。

 政権発足時、避難指示区域の8万人に自主避難を含めた原発避難者は16万人いた。今も12万人にのぼる

 ■対策難航、除染も中間貯蔵も汚染水も

 安倍首相は「福島の復興なくして日本の再生なし」と繰り返してきた。背景には、がれき処理が終了し災害公営住宅の建設のめどが立ちつつある岩手、宮城両県に比べ、福島県の復興が進んでいない現状がある。

 就任直後には環境省任せの除染を改め、復興庁や国土交通省の関与を強めさせた。「中間貯蔵施設の15年1月運用開始」の実現には、地元交渉にたけた役所の力が必要と判断した。当時は手抜き除染問題が明らかになり、環境省への地元の不信も高まっていた。

 地元自治体との受け入れ交渉中の今年6月、石原伸晃環境相(当時)が「最後は金目(かねめ)でしょ」と発言。地元の反発が高まるなか、政府は交付金を当初の2倍の3010億円に増額。9月に県が同意し、安倍首相は「大きな一歩」と話した。

 第一原発の廃炉・汚染水対策では国の責任を明確にし、汚染水の封じ込めに国費470億円投入。昨年の五輪招致で安倍首相は「完全にブロックされている」とアピールした。今年5月には汚染水の発生を抑えるため、原子炉建屋に浸入する前の地下水をくみ上げ、海に放出を始めた。

 一方で、復興スケジュールの遅れなどもみられた。

 年50ミリ超の帰還困難区域を除く避難指示区域について、安倍政権は13年度中の除染終了という民主党政権の目標を引き継いだ。だが政権発足1年後の13年12月、対象11市町村のうち6市町村の終了を最大3年間延長した。

 中間貯蔵施設も、候補地の町から「地権者の理解が進んでいない」と指摘されるなど、用地交渉が難航。竹下亘復興相は来年1月の運用開始目標を「極めて難しい。見直すことになるだろう」と述べた。

 原発の汚染水対策も、放射線量が極めて高い坑道で水の除去にてこずるなど、制御への道のりは遠い。

 避難指示区域の住民を対象にした復興庁の意向調査によると、現時点で帰還を考えている人は4割以下。復興政策のもたつきが続けば、帰還意欲はますます衰えかねない。


http://www.asahi.com/articles/DA3S11485068.html
朝日新聞
2014年12月2日


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