2016/09/18

さあこれからだ /132 甲状腺検査縮小 隠れる真実=鎌田實


2016年9月18日 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160918/ddm/013/070/026000c  

福島県小児科医会には、驚いた。福島県が実施している子どもの甲状腺検査のあり方を縮小することを含め、見直すよう福島県に要望を出したのだ。いったい、どういう考えなのだろうか。

甲状腺検査は、福島第1原発事故当時18歳以下の子どもを対象に行われている。1巡目の検査では、甲状腺がんと診断された子どもと、がんの疑いのある子 どもは115人、2014年からはじまった2巡目の検査では59人。1巡目と2巡目を合わせると、甲状腺がんと診断された子どもは135人、疑いのある子 どもは39人でたことになる。

もともと小児甲状腺がんは珍しい病気といわれていたので、この数字は、専門家にとっても驚きだったはず。県小児科医会は、予想外に多い甲状腺がんが発見 されたことにより、子どもや保護者、一般の県民にも不安が生じているとし、検査やその後の治療の進め方の一部見直しを検討すべきだとしている。

検査で多くの甲状腺がんが見つかってしまい、みんなに不安を与えているから、検査そのものを縮小しようというのだろうか。検査を減らして本当に県民に安 心を与えられるのか。不安になるほど、がんが見つかっているからこそ、検診によって早期発見、早期治療が必要なのではないか。

ぼくが理事長を務める日本チェルノブイリ連帯基金は、チェルノブイリ原発事故の汚染地域に102回医師団を送ってきた。今年4月、ベラルーシを訪ねたとき、ミンスク甲状腺がんセンターの所長であるユーリ・ジェミチェク医師はこう語った。

「ベラルーシでは放射能汚染が少ないところでも、子どもの甲状腺がんが見つかっている。福島の放射性ヨウ素の放出量がチェルノブイリの約10分の1だからといって安心しないほうがいい」

さらに、1巡目で多くの甲状腺がんと疑いのある子どもが見つかったのは、多くの人を対象に検査すると、それだけ多くの人に病気が見つかるという「スク リーニング効果」の可能性もあるといった。だが、2巡目でも多数見つかっていることは、スクリーニング効果では説明できないと話した。

県小児科医会が心配している「甲状腺がんへの不安」は、どうしたら取り除けるのか。それは、検査をしないことでは決してない。

ジェミチェク医師は「私たちは30年間、甲状腺がん検診を続けてきた。日本でも長期的展望で検査を行うことが大事だ。そうすれば早期治療が可能になり、子どもたちの命は必ず守れる」と強調した。

子どもの甲状腺がんはリンパ節転移が多い。しかし、手術など適切な治療をすれば予後がよく、ほぼ治る。本来、見つけなくてもいいがんを見つけたのだからといって、放っておくと、がんは進行し、重い手術になったり、リスクが高まったりする。

つまり、不安を取り除くには、しっかりと甲状腺検査をし、見つかったがんはできるだけ早期に治療すること。患者さんや家族の不安を取り除くために、医学ができることは、それ以外にない。

もし甲状腺検査を縮小すれば、不信感が起こり、かえって不安を増長することになる。

そもそも原発事故発生当時、放射性ヨウ素の汚染状況を調べなかったことが問題である。当時の子どもの甲状腺の被ばく量をほとんど測定していない。そのため、甲状腺がんと原発事故の因果関係は、ある、ない、の水かけ論のままである。

このときに各地域で、数人ずつでも甲状腺の被ばく量や、放射性ヨウ素の汚染度を調べておけばよかったのである。放射性ヨウ素は半減期が8日と短いため、今ではまったく見つけることができない。

再び、同じようなことを繰り返してはならない。甲状腺検査まで縮小してしまったら、何が起こっているのか不明になり、事実に蓋(ふた)をしてしまうことになる。(医師・作家、題字も)

ミンスク甲状腺がんセンターの所長、ユーリ・ジェミチェク医師(右)と
=ベラルーシの同センターで4月

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