2016/09/27

福島からの母子避難/個々に応じた支援息長く

2016年09月27日 河北新報
http://www.kahoku.co.jp/editorial/20160927_01.html

東京電力福島第1原発事故から5年半が過ぎた。子どもの放射線被害を恐れて福島県から自主避難し県外で暮らす人たちは、長期化する避難生活で悩みを深めている。
大半は母親と子どもだけが避難し、父親は仕事などの都合で福島県内の自宅に残って二重生活を続ける家族だ。生活環境や人間関係、経済的負担、精神面などさまざまな困難に直面してきた。

悩んだ末に福島への帰還を決断する母子も相次ぐ。それ故になお、避難を続ける家族は葛藤を強め、それぞれの事情も多様化している。避難先での暮らしを支援するNPOや専門家は、個別の状況に応じたきめ細かな支援や相談の場の必要性を訴える。

福島県は来年3月、自主避難者に対する住宅無償提供を打ち切る。自主避難者への少ない公的支援がさらに手薄になっては、困窮する母子世帯も少なくないだろう。一様に帰還を推し進めるのではなく、個々の選択を尊重し、ニーズがある限り息長く支援を継続することが求められる。

避難者支援であると同時に、「子育て支援」であり「健康的な環境で安全に暮らす子どもの権利の保障」であるという観点に沿ったサポートが重要ではないか。

福島県から他の都道府県に避難している人は、復興庁によると、8月12日現在で4万833人。親族や知人宅以外の公営、仮設、民間賃貸などの住宅に暮らす人は、そのうち2万8627人に上る。

避難指示区域外からの自主避難者数は正確に調査されておらず、母子避難世帯の数も把握されていないが、山形、宮城、新潟、埼玉、茨城など近隣の県では母子避難のケースが少なくないとされる。

原発事故という人災によって損なわれた子育て環境の安全。母親たちは苦渋の選択でそれを他の地域に求めるのと引き換えに、夫や親戚、地域の育児支援と切り離された。

孤立し、一人きりで子どもを育てる負担は重い。それにも増して「『自主避難者』とされ、避難が自己選択・自己責任に委ねられたことによる精神的な苦痛が大きい」。山形県で母子避難者の調査や支援を行った山根純佳・実践女子大准教授はそう指摘する。

子どもを父親や福島のコミュニティーから切り離すことになった選択は正しかったのか、母たちは常に自責感に揺れていると山根准教授は言う。帰還を求める夫や親戚、福島への愛着とのはざまで動揺し、ストレスは避難の長期化とともに増大している。

そうした心情を理解し受け止めた上で、子育て期の家族を丸ごと支援することが必要だ。孤立させることなく、子どもの健康や進学、母親の就職、家族関係、メンタルヘルスなど多様な課題をワンストップで適切な支援につなげるネットワークが有効だろう。

福島に帰還した母子の中には、以前のコミュニティーに溶け込めない、県内に住み続けてきた人との関係がぎくしゃくするなど新たな悩みを持つ人もいるという。帰還後の生活も含め、安全な環境を求める福島の全ての子育て世帯に目配りした支援の在り方を行政は考えるべきだろう。

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