2016/06/16

(核リポート)古い原発、危険な延命 ウクライナの事情

2016年6月16日 朝日新聞
http://www.asahi.com/articles/ASJ5V66JDJ5VULBJ013.html

◆チェルノブイリ特別編:3
「運転40年を超えた原発を稼働させ続けるべきではない。事故の教訓は生かされているのか」

日本の話ではない。NGO「ウクライナ国立生態学センター(NECU)」のコーディネーター、オレクシー・パシュークさん(42)はウクライナの状況に警鐘を鳴らす。

NGOウクライナ国立生態学センターのオレクシー・パシューク氏。
「ウクライナの原発はリスクが大きすぎる」と指摘する=ウクライナ・キエフ

どういうことか。

1986年のチェルノブイリ原発事故を受けても、ウクライナでは原発の運転が続いた。チェルノブイリでも、事故を起こさなかった1~3号機は動かしていた。現在も同国内では15基の原発が運転中だ。

日本原子力産業協会によると、事故後に9基が新たに運転を開始。今も2基の建設が予定されている。ウクライナ政府は、電力に占める原発の割合を2030年も5割近くで維持するという。

だが、15基の中には、すでに稼働30年を超えた原発が6基あり、2030年には12基が稼働40年超になる。現在計画されている2基の完成予定は延期されており、新規建設が一気に進む見通しは薄い。国のエネルギー需要を満たすため、ウクライナ政府は古い原発の延命を進める意向だ。

さらに、ロシアに併合されたクリミア半島や親ロシア派に制圧された東部方面の周辺には、南ウクライナ原発やザポリージャ原発もある。国家間の係争地の近くに原発が存在しているというのがウクライナの現状だ。

国際的な投資機関の動向を監視するNGO「CEEバンクウォッチネットワーク」は今年5月18日、風力や太陽光などの再生可能エネルギーを拡大していき、エネルギー効率を高めるために投資すれば、ウクライナの時代遅れの原発を廃止することが出来る、との提言を発表。「欧州はウクライナの危険な原発部門への支援をやめるべき時だ」と訴えた。

「ウクライナの原発の中では、チェルノブイリは安全な方です。動かしていないし、シェルターで覆うという方針はおおむね妥当なものですから」。パシュークさんは皮肉を込めて言った。

一方、意外なところで原発容認論も聞いた。

キエフ市内にある国立チェルノブイリ博物館。元は消防署だったという建物に、事故の記憶を伝える写真や資料約7千点が並ぶ。

アンナ・コロレフスカ副館長は「原発を閉めても核廃棄物の問題もある。今は生きつつ受け入れていくしかない」と話す。ウクライナはロシアとの関係悪化で、ロシアからの天然ガスの調達などに不安を抱える。

コロレフスカ副館長も、事故の後、それまで裸で売られていたパンがポリ袋に包んで売られるようになった様子などを鮮明に覚えている。風化が進む中、事故の悲惨さや教訓を今も伝え続けている。

それでも「原発について私は現実主義者」と言い切る。事故の記憶とともに、放射能に関する知識など「原発との上手な付き合い方」についても説明していきたいと語った。

     ◇

こつぼ・ゆう 東京本社科学医療部記者。2005年入社。松山総局、京都総局などをへて、15年5月から現職。13年4月~14年4月までは福島総局員として、東京電力福島第一原発事故後の廃炉作業や除染などの取材にも関わった。(小坪遊)

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