2013/05/26

「原発事故子ども・被災者支援法」 Q&A


「原発事故子ども・被災者支援法」についてのQ&Aを、FoEJapanの満田さんが作成してくださいました。まだまだこの法案をよく知らない地元の国会議員や自治体に、一刻も早い施策の実施を要請いていくためにこの資料を活用下さい。
また、避難された方、福島を始めとする、東北関東の被災地の方達にも、この法案の事を知らない人がまだまだいらっしゃいます。
是非、みなさんのネットワークを活かして、この法案を伝え、居住する地域の自治体、国会議員に 政府に対してこの法案の基本方針の策定と、早期施策の実施を要請して頂くよう、働きかけをしていきましょう。

「原発事故子ども・被災者支援法」
Q&A
原発事故被災者支援法(正式名称:東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律)が2012621日、国会で成立しました。しかし20135月現在、政府は同法の基本方針を策定しておらず、同法に基づく施策は実施されていないのが現状です。

Q1:なぜ、この法律が必要だったのでしょうか?
A1:原発事故の被害に苦しむ多くの人たちの救済や権利の確立が進んでいません。避難を余儀なくされた人の中には、経済的な苦境や生活の激変に直面し、多くの困難をかかえている人も少なからずいます。災害救助法に基づく、住宅借り上げ制度が適用されていましたが、昨年いっぱいでその新規申込が打切りとなってしまいました。とどまっている方々も、子どもを外で遊ばせられない、被ばくが不安、将来的な健康への不安がある、保養プログラムが十分でないなど多くの問題に直面しています。さらに、被ばく回避・低減政策は不十分であり、健康管理調査も福島県に限定されています。とどまった方々や避難された方への支援が急がれています。

Q2:この法律のポイントはどのようなものですか?
A2:原発事故の被災者の幅広い支援、人々の在留・避難・帰還を選択する権利の尊重、特に子ども(胎児含む)の健康影響の未然防止、健康診断および医療費減免などが盛り込まれています。

○国の責任
  「これまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っている」として国の責任を明記しています(第三条)。
○「支援対象地域」
  いままでの政府指示の避難区域よりも広い地域を「支援対象地域」として指定し(第八条第一項参照)、そこで生活する被災者、そこから避難した被災者の双方に対する支援を規定しています。☞Q6 支援対象地域はどの範囲となるのでしょうか」参照
   
  支援の内容は、第八条、第九条に定められています。

支援の内容
支援対象地域に住む被災者
医療の確保、子どもの就学等援助、家庭・学校等における食の安全確保、自然体験活動等の施策、家族と離れて暮らすこととなった子どもに対する支援、除染、学校給食等についての放射性物質の検査など
支援対象地域から避難した被災者
移動の支援、移動先における住宅の確保、学習等の支援、就業の支援、移動先の地方公共団体による役務の提供を円滑に受けることへの支援、支援対象地域の地方公共団体との関係の維持、家族と離れて暮らすこととなった子どもに対する支援
帰還する被災者への支援
移動の支援、住宅の確保に関する施策、就業の支援に関する施策、地方公共団体による役務の提供を円滑に受けることへの支援、家族と離れて暮らすこととなった子どもに対する支援

第十三条第二項では、被災者の定期的な健康診断、とくに子どもたちが生涯にわたっての健康診断を受けられることが規定されています。
「少なくとも、子どもである間に一定の基準以上の放射線量が計測される地域に居住したことがある者(胎児である間にその母が当該地域に居住していた者を含む。)及びこれに準ずる者に係る健康診断については、それらの者の生涯にわたって実施されることとなるよう必要な措置が講ぜられるものとする。」(第十三条第二項)

  第十三条第三項では、医療費減免について規定しています。Qで解説します。

Q3:医療費の減免は、子ども・妊婦に限定されるのですか?

A3:「子ども・妊婦以外の医療費の減免については、認められるケースもある」というのが国会におけるこの法案を提案した議員からの答弁でした。
第十三条の第三項には下記のように規定されており、子ども・妊婦については明確に規定されていますが、成人に関しては明確ではありません。
国は、被災者たる子ども及び妊婦が医療(東京電力原子力事故に係る放射線による被ばくに起因しない負傷又は疾病に係る医療を除いたものをいう。)を受けたときに負担すべき費用についてその負担を減免するために必要な施策その他被災者への医療の提供に係る必要な施策を講ずるものとする。
なお、昨年5月、複数の市民団体が、本法案に関する要請書および署名を提出しましたが、その一つが医療費の減免範囲を成人にも拡大してほしいというものでした。
【詳しくはこちら】医療費の減免措置の拡大を求める要請
http://hinan-kenri.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/post-9a8b.html

Q4:子どもたちが成人したあとの医療費はどうなるのですか?

A4:国会審議においては、一定の線量以上に居住または居住したことのある子ども(胎児含む)に対しては、生涯にわたって医療費を減免するとの答弁が得られています。ただし法文上はそのように明記されていないため、今後明文化していくことが必要です。

Q5:医療費の減免措置をうけるにあたり、被災者が被ばくとの因果関係の証明をしなければならないのでしょうか?

A5:被ばくと疾病の因果関係の立証責任は、被災者が負わないことになりました。広島・長崎の被ばく問題や、水俣病の被害者が長年苦しめられてきた経験を踏まえてのことです。
第13条第3項において
国は、被災者たる子ども及び妊婦が医療(東京電力原子力事故に係る放射線による被ばくに起因しない負傷又は疾病に係る医療を除いたものをいう。)を受けたときに負担すべき費用についてその負担を減免するために必要な施策その他被災者への医療の提供に係る必要な施策を講ずるものとする。
とされていますが、「放射線による被ばくに起因しない負傷又は疾病に係る医療を除いたもの」であることを理由に医療費の減免措置を行わないということであれば、これについては国が立証責任を負うと提案にあたった国会議員は答弁しています。

Q6:支援対象地域はどの範囲となるのでしょうか。

A6:第八条第一項において、支援対象地域は、下記のように定義されています。
「その地域における放射線量が政府による避難に係る指示が行われるべき基準を下回っているが一定の基準以上である地域」
現在の政府の避難指示の基準が年間20ミリシーベルトですので、支援対象地域は、「一定の基準」以上、年間20ミリシーベルト以下となります。

国会の審議では、この「一定の基準」に関しては、ICRP(国際放射線防護委員会)が公衆の被ばく限度を年1ミリシーベルトとしていることなどをあげ、「1ミリシーベルト以下を目指していく」「再び被災者を分断することがないよう、被災者の意見や地域の実情を踏まえてきめていく」(谷岡郁子議員、2012614日、参議院東日本大震災復興特別委員会)、「福島県は全地域含まれる」(森雅子議員、615日、衆議院東日本大震災復興特別委員会)との答弁でした。
今後、第五条の実施方針の中で規定されていきます。

なお、チェルノブイリ原発事故後、周辺国で制定された「チェルノブイリ法」では、年間の追加被ばく量1mSv以上の地域を「避難の権利ゾーン」、5mSv以上の地域を「避難の義務ゾーン」として規定しました。(参考)アレクサンドル・ヴェリキン氏来日講演~権利を勝ち取った苦難の歴史
「チェルノブイリ法」への道のり~年1ミリシーベルト以上を「避難の権利ゾーン」に~

Q7:この法律の主務官庁はどこになりますか?

A7:幅広い省庁が関与します。基本方針は復興庁、放射線に関する調査は文部科学省、除染や健康管理支援は環境省、住居の確保や移動の支援は国土交通省、就労支援は厚生労働省などです。

Q8:法律に書き込まれている理念はすばらしいのですが、絵に描いた餅に終わらないでしょうか?

A8:この法律には以下の特徴と課題があります。
  いわゆる「プログラム法」であり、理念や枠組みのみを規定。政府は、支援対象地域の範囲や被災者生活支援計画などを含む「基本方針」を定め、その過程で、被災者の声を反映していくことになっている。しかし、いつまでに政府が基本方針を策定するのか、明記されていない
  支援対象地域の定義がされていない。これについても「基本方針」の中で規定される。
  主務官庁が明記されていない。復興庁が中心的な役割を担うが、関連省庁が多いことにより、責任の所在があいまい。地方公共団体との役割分担があいまい。

これらの点を踏まえて、国、国会議員、地方公共団体、被災当事者、支援団体、市民など幅広い連携により、法律を活かしていかなければなりません。

Q10:現在の状況は? 復興庁の「支援施策パッケージ」とは?
法律制定後、11か月にもなるのに、いまでに基本方針は策定されていません。
復興庁は、2013315日、「原子力災害による被災者支援施策パッケージ~子どもをはじめとする自主避難者等の支援の拡充に向けて~」を発表しました。根本匠復興大臣によれば、「子ども・被災者支援法による必要な施策については、この対策で盛り込んだ」とされています。しかし、このパッケージは、極めて限定的なものであり、下記のような問題があります。
l  多くの被災者・避難者の深刻な実態を反映していない。
l  被災者・支援者の意見が反映されていない。
l  多くの施策で、対象地域が被災三県や福島県の一部に限定されるなど、非常に狭い。被災者の間にさらなる分断を持ち込むものである。
l  自主避難者向け新規施策として、高速道路の無料化など限定した内容しか盛り込まれていない。
l  健康対応に関しては、現状の福島県の県民健康管理調査などの継続実施にとどまっている。より詳細な検査や福島県外における健診が実施されることになっていない。

Q9:市民団体の取り組みは?

この法律の制定を受け、被災当事者、支援団体などからなる幅広い市民のネットワークである、「原発事故子ども・被災者支援法市民会議(以下、市民会議)」が立ち上がりました(20135月現在、54団体注参照)。事務局は、FoE Japanと、福島の子どもたちを放射能から守る法律家ネットワーク(SAFLAN)が担っています。
市民会議では、国会議員と歩調を合わせ、政府との対話を通じて、一刻も早い支援の具体化に向けて、働きかけを行っています。20121128日には、復興大臣と会合を持ち、「原発事故子ども・被災者支援法」の基本方針に関する提言を提出しました。また、政府交渉を実施しました。

「原発事故子ども・被災者支援法」基本方針に関する要望:2頁
「原発事故子ども・被災者支援法」基本方針に関する要望と提言:18
また、災害救助法に基づく住宅借り上げ制度の打ち切り問題に当たっては、継続を求めて、厚労省、福島県に緊急署名を提出し、交渉を行いましたが、及びませんでした。

(文責:満田夏花/FoE Japan

注)<運営団体>子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク、福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク、国際環境NGO FoE Japan、福島老朽原発を考える会、ハーメルン・プロジェクト、グリーンピース・ジャパン、子どもたちを放射能から守る全国ネットワーク、福島避難母子の会in関東、東日本大震災市民支援ネットワーク・札幌むすびば、任意団体Peach Heart、ピースボート、市民放射能測定所 CRMS、311受入全国協議会、福島原発震災情報連絡センター、富士の麓のうつくし村 <参加団体>ヒューマンライツ・ナウ、子どものための平和と環境アドボカシー(PEACH) 、安全安心アクションin郡山(a郡山) 、子どもたちを放射能から守る全国小児科医ネットワーク、福島乳幼児妊産婦ニーズ対応プロジェクト事務局、みちのく会、福島避難者子ども健康相談会、つながろう!放射能から避難したママネット@東京、つながろう!放射能から避難したママネット@埼玉、ハイロアクション福島、こども東葛ネット、ゆるりっと会、きらきら星ネット、NPO法人大沼・駒ヶ岳ふるさとづくりセンター、子ども未来NPOセンター(いわき市)、放射能から子どもを守ろう安中の会、毎週末山形、JDF被災地障がい者支援センターふくしま被災者支援会議、JANIC、福島避難者子ども健康相談会、子どもたちの健康と未来を守るプロジェクト、福島原発事故緊急会議生きる権利プロジェクト、宮城脱原発・風の会、チームくさっぱら、放射能から子どもを守ろう関東ネット、とねぬまた地域向上委員会、福島の子どもたちとともに・世田谷の会、放射能から子供たちを守る沼田の会、放射能から子どもを守ろう利根沼田、NPO山梨ナチュラル工房、子どもたちを放射能から守るみやぎネットワーク、パルシステム生活協同組合連合会、ホッとネットおおさか、市民科学者国際会議、「チェルノブイリ被害調査・救援」女性ネットワーク、原発事故子ども・被災者支援法を考える山形会議、那須野が原の放射能汚染を考える住民の会、会津放射能情報センター、広島福島保養プログラム実行委員会(54団体)
連絡先(事務局):福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク(SAFLAN) 
国際環境NGO FoE Japan  Tel: 03-6907-7217 Fax: 03-6907-7219

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