東京電力福島第一原発事故から7年半以上経過した。事故直後、政府は福島県に対し緊急時を理由にこれまで年1 mSvだった一般公衆の被曝基準を20 mSvに引き上げた。さらに100 mSv以下の被ばくの健康影響は証明できないほど小さく、そのことは「国際合意の科 学的知見」だと主張した。
その後政府は20 mSvを下回ることが予想される区域の避難指示を順次解除し、2017年4月に同区域を全面解除した。避難者への賠償と住宅支援も打ち切られたが、そのため避難の継続が困難となり、意思に反して汚染地帯へ帰還せざるをえな い人々もいる。
避難指示解除が進められる中、約2兆6000億円投じた「除染」はほぼ終了し、もはや 事故は過去の出来事であるかのような風潮も生まれている。原発被災者が被ばくに対する 不安を口にすると「過敏すぎ」「風評被害を煽る」「復興の妨げ」と批判されバッシング を受ける場合もある。
しかし、事故により放出された膨大な放射能(政府が発表したセシウム137の放出量は1.5京ベクレル。広島原爆のセシウム137の放出量は89兆ベクレルと言われている)の多くは海洋などに流出したとしても依然として被災地に大量に残ったまま である。いくら除染してもセシウム137の半減期が30年であることを変えることはできない。
汚染地に住み続けて健康被害がないと誰も保証できない以上、帰還したくないと考える住民⺠がいるのは当然である。
このような状況の下で、のべ12000人を超える原発被災者たちが原告となり全国で東電・国を相手に事故による損害賠償を求める裁判(2018年6月現在、27件・18地裁)が進んでいる。すでに東京、京都など5つの地裁で判決が下され、関西でも2018年3月に京都地裁判決が下された。
判決は、東電・国の事故責任・賠償責任を認定したが、その内容は ⾃主的避難対象区域から2012年4月1日までに避難した者だけが認定対象であったり、損害 を避難時から2年間しか認めなかったりで、賠償内容は全く不十分だとの批判もある。
損害が小さく見積もられた原因は、低線量被ばくの健康影響が軽微なものと主張した被告側 証人の見解が大筋において認定されたことと密接に関係がある。低線量被ばくの健康影響の科学的評価は裁判においても今後ますます重要になると思われる。
また、「放射線安全論」の⼀⽅的な刷り込みのためにではなく、本当のリスクを正確に評価するために専⾨家と被災者の双⽅向のコミュニケーションの充実も必要である。
本シンポジウムでは放射線の健康リスクを正しく評価するためにまず放射線防護基準 決定の歴史と現代の放射線影響科学の到達段階を学ぶとともに原発事故被害者の視点から健康リスクをどう受け止めどう行動したかを語っていただき、さらに弁護士の立場からこの問題での司法の役割について解説していただく予定である。それらを踏まえて自然科学・国際法・環境経済学それぞれの立場からのコメントをいただいた上で、総合的な討論を行ないたい。
このシンポジウムは各分野の専門家と原発事故被害者・避難者とのいわば コラボ企画、すなわち、人々の生活に役立つ真の意味での学術協力を通して問題の根本的解決を探る試みとして企画された。多くのみなさんの参加を期待する。
その後政府は20 mSvを下回ることが予想される区域の避難指示を順次解除し、2017年4月に同区域を全面解除した。避難者への賠償と住宅支援も打ち切られたが、そのため避難の継続が困難となり、意思に反して汚染地帯へ帰還せざるをえな い人々もいる。
避難指示解除が進められる中、約2兆6000億円投じた「除染」はほぼ終了し、もはや 事故は過去の出来事であるかのような風潮も生まれている。原発被災者が被ばくに対する 不安を口にすると「過敏すぎ」「風評被害を煽る」「復興の妨げ」と批判されバッシング を受ける場合もある。
しかし、事故により放出された膨大な放射能(政府が発表したセシウム137の放出量は1.5京ベクレル。広島原爆のセシウム137の放出量は89兆ベクレルと言われている)の多くは海洋などに流出したとしても依然として被災地に大量に残ったまま である。いくら除染してもセシウム137の半減期が30年であることを変えることはできない。
汚染地に住み続けて健康被害がないと誰も保証できない以上、帰還したくないと考える住民⺠がいるのは当然である。
このような状況の下で、のべ12000人を超える原発被災者たちが原告となり全国で東電・国を相手に事故による損害賠償を求める裁判(2018年6月現在、27件・18地裁)が進んでいる。すでに東京、京都など5つの地裁で判決が下され、関西でも2018年3月に京都地裁判決が下された。
判決は、東電・国の事故責任・賠償責任を認定したが、その内容は ⾃主的避難対象区域から2012年4月1日までに避難した者だけが認定対象であったり、損害 を避難時から2年間しか認めなかったりで、賠償内容は全く不十分だとの批判もある。
損害が小さく見積もられた原因は、低線量被ばくの健康影響が軽微なものと主張した被告側 証人の見解が大筋において認定されたことと密接に関係がある。低線量被ばくの健康影響の科学的評価は裁判においても今後ますます重要になると思われる。
また、「放射線安全論」の⼀⽅的な刷り込みのためにではなく、本当のリスクを正確に評価するために専⾨家と被災者の双⽅向のコミュニケーションの充実も必要である。
本シンポジウムでは放射線の健康リスクを正しく評価するためにまず放射線防護基準 決定の歴史と現代の放射線影響科学の到達段階を学ぶとともに原発事故被害者の視点から健康リスクをどう受け止めどう行動したかを語っていただき、さらに弁護士の立場からこの問題での司法の役割について解説していただく予定である。それらを踏まえて自然科学・国際法・環境経済学それぞれの立場からのコメントをいただいた上で、総合的な討論を行ないたい。
このシンポジウムは各分野の専門家と原発事故被害者・避難者とのいわば コラボ企画、すなわち、人々の生活に役立つ真の意味での学術協力を通して問題の根本的解決を探る試みとして企画された。多くのみなさんの参加を期待する。
場所:同志社大学烏丸キャンパス志高館110番教室 (地下鉄烏丸線・今出川駅北へ徒歩5分)
共催:日本学術振興会科研費「放射線影響研究と防護基準策定に関する科学史的研究」班
/放射線被ばくの科学史研究会/日本科学史学会生物学史分科会
プログラム
司会 市川浩(広島大学大学院 総合科学研究科教授)
主催者挨拶 柿原泰(東京海洋大学准教授)
趣旨説明 藤岡毅(同志社大学 理工学部嘱託講師/大阪経済法科大学客員教授)
第1部 放射線健康影響の科学と歴史
講演1「低線量被曝の健康影響について」
本行忠志(大阪大学大学院 医学系教授,放射線生物学教室)
講演2「原子力開発と結びついた放射線防護基準の歴史と現在」
高橋博子(名古屋大学大学院 法学研究科研究員,米国史)
第2部 原発事故被災者だから見える視点と法の役割
講演3「事故から被った被害と避難の正当性
〜『被ばくからの自由(避難の権利)』の確立を求めて〜」
森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream 代表/
原発賠償関西訴訟原告団代表)
講演4「原発事故被災者の権利を守るための司法での闘い」
井戸謙一(弁護士/子ども脱被ばく裁判弁護団長)
第3部 コメントと討論
コメント1 山内知也(神戸大学大学院 海事科学研究科教授)
コメント2 徳永恵美香(大阪大学大学院 国際公共政策研究科 招へい研究員)
コメント3 除本理史(大阪市立大学大学院 経営学研究科教授)
全体討論
閉会挨拶
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