2011年3月11日に起こった東日本大震災、特にその結果引き起こされた東京電力福島原発の事故への科学者・科学者コミュニティの対応は、多くの問題を残すものであった、ということは、広く共有されていたものと思います。しかしながら、事故後8年がたち、必ずしもその教訓が生かされたわけではなく、風化しつつあるのが現状です。
一方、「福島原発の事故の教訓」を受けた、放射線防護のあり方の再検討は、着々と進んでおり、ICRP の新しい勧告案も公開されました。この中には、個人線量測定の有用性について言及されたくだりもあります。
政府の放射線審議会においては、福島県伊達市全住民の個人線量計(ガラスバッジ)測定データを用いた個人線量と空間線量率との関係を論じたMiyazaki and Hayano(2017a)*1(以下MH第1論文)が根拠となる資料として取り上げられていました。この論文は、ガラスバッジ測定個人線量が航空機モニタリングから示される線量の0.15倍となり、その係数は政府が採用している値の1/4であることを主要な結論としています。この結果は日本社会にとって大きな意味をもつものと考えられました。
その後、伊達市住民から、MH第1論文およびMH第1論文をもとに生涯累積線量を求め除染の効果を論じた続報のMiyazaki and Hayano (2017b)*2(MH第2論文)について、東京大学と福島県立医科大学に対して研究倫理指針違反と研究不正の調査申立がなされたことをうけて、放射線審議会の資料からは削除されました。7月19日に発表された調査結果の概要によると、東京大学科学研究行動規範委員会は、倫理指針違反の申立については調査範囲外とし、不正申立については誤りはあるものの不正とはいえないとの趣旨の判断を示しました。福島県立医科大学は、「研究計画書からの逸脱等は散見されるものの、倫理指針に対する重大な不適合に該当するものではなかった。また、第 2 論文中に故意ではない誤りは認められたものの、捏造・改ざん・盗用に該当する研究不正については認定できない。」との結論を公表しました。
こうした経緯をふまえて、オープンフォーラムを開催します。
日時:2019年9月14日(土)14:00~17:00
場所:東京大学本郷キャンパス 赤門総合研究棟 A200番教室
プログラム――――――――――――――
[講演]
黒川眞一(高エネルギー加速器研究機構名誉教授)
:科学の危機をまねく非論理性とルール無視――宮崎早野論文とその調査結果を例に
濱岡豊(慶応義塾大学)
:個人線量測定論文の諸問題
牧野淳一郎(神戸大学)
:「科学」の生態学:2011年3月の専門家の言動から宮崎早野論文と放射線審議会まで
[討論]
黒川眞一・濱岡豊・牧野淳一郎 司会:影浦峡(東京大学)
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事前登録不要、無料、一般の方歓迎
(OurPlanet-TVによるネット中継も予定)
(本企画は当初、論文著者である早野龍五氏・宮崎真氏に講演を依頼しましたが、ご出席がかないませんでしたので、プログラムを変更して開催します。)
主催:科学の健全な発展を望む会・影浦研公開セミナー
共催:分野を横断した放射線疫学の研究会