田村市都路地区、川内村、飯舘村では、昨年9月より、個人線量計を使って、1日の生活パターンによって、どのくらいの被ばくをするのかを調査していたにもかかわらず、そのデータは高すぎる結果になったとして隠され、想定していた屋外8時間を6時間に減らして、推定した数値を発表した、という。
毎日新聞によって報道され、明るみになったこの事実を、私たちはどう受けとめたらいいのだろうか。屋外作業に従事する人々は、これらの地区では、1ミリシーベルトをはるかに上まわる被ばくを覚悟しなければならないという事実。しかし、農業や林業にささえられたこれらの地区で、屋外作業を制限しても帰還することが勧められることはどうかと思う。
また、そのような被ばく労働によってしか、生業を営めない状態のまま、避難指示を解除してしまうこと、そして、大人の帰還にともなって、子どもたちの帰還も促されてしまうことに大いに危機感を感じる。帰還ありきの調査ではなく、除染をしたら、きちんと調査を行い、それに基づいて対応を決定してほしいし、その基準は、これまでのさまざまなケースで政府が採用してきた、年間追加被ばく1ミリシーベルトを基準にすべきだと言いたい。
以下、毎日新聞、日野記者のレポートを転載。
福島・個人線量の調査非公開=日野行介(東京社会部)
毎日新聞 2014年05月22日より
◇「帰還ありき」情報操作
東京電力福島第1原発事故に伴う避難指示の解除予定地域で、個人線量計を使って調査した被ばく線量のデータを、政府が半年間にわたり公表していなかった問題を報じた。想定より「線量が高い」との意見が出された結果、帰還の判断に不可欠な情報が明かされないまま、福島県の一部で避難指示が解除された。政府は帰還ありきで公表する情報を選別しているのではないか。そんな疑念が拭えず、住民も不信感を強めている。
経過を振り返りたい。内閣府原子力被災者生活支援チームは昨年7月末、放射線医学総合研究所と日本原子力研究開発機構に個人線量計を使った線量調査を依頼した。「協力事業」という位置付けだったため入札は行われず、調査の実施も公表されなかった。
依頼を受けた両機関は昨年9月、避難指示解除が予定されていた福島県田村市都路地区(今年4月1日解除)と川内村、飯舘村で、個人線量計とサーベイメーター(放射線測定器)を使って家屋の内外や農地、山林などの線量を測定。以前から活用されていた航空機モニタリングの推計値を含め、三つのデータを比較した。
個人線量計を基にした年間推計値は、1日の生活パターンを主に屋外滞在8時間、屋内16時間と仮定してはじき出された。川内村の推計値は2・6〜6・6ミリシーベルトで、一般人の年間被ばく限度の1ミリシーベルトをかなり上回った。支援チームの担当者は11月上旬、発表用資料を作成したが、個人線量計の推計値が「高すぎる」という意見が出て、公表されなかった。屋外を約6時間に変更して推計し直し、4月18日に発表された最終報告書では、川内村の数値は1・3〜5・5ミリシーベルトに下がっていた。
◇「期待外れ」認識、公表の前に削除
この調査の背景に何があったのか。両機関が3月下旬、支援チームに宛てて作成した非公表の文書がある。全57ページで表題に「最終報告書」とあり、4月に実際に発表された報告書より7ページ多い。
非公表の文書によると、支援チームは、以前別の地域で測定した個人線量計の被ばく線量が、航空機モニタリングの3分の1〜7分の1だったというデータに着目した。田村市などの1市2村でも同様の結果が出たなら、個人線量計を使えば被ばく線量が航空機モニタリングに比べて一定の低い割合になることが実証できる。それがチームの「モチベーション(動機)」だった、という。「線量は低い」と強調して帰還を促す支援チームの思惑がうかがえる記述だ。期待した結果が出なかったため「この観点は事業の主な目的から外された」とも書かれているが、いずれも公表段階で全て削除された。
支援チームが当初は避難指示解除準備区域が設定された6自治体で調査を要請していたことや、データ不足などから明確な結論を出せない部分が残ったとする記載も消えた。いずれも、支援チームが調査を尽くすより、早く結果を得ることを優先していたことを示唆する内容だ。
原子力規制委員会は昨年9〜11月に「帰還に向けた安全・安心対策に関する検討チーム」の会合を開いた。支援チームが調査を急いだのは、この会合に結果を報告するためだった。結局、調査したという事実すら伝えなかったが、検討チームは帰還住民が個人線量計を使って被ばく線量を管理することを提言し、政府方針として採用された。住民が不安を抱くような情報を伏せ、帰還促進に向けて結論ありきで政策が決められたと疑わざるを得ない。
◇政府への不信感募らせる避難者
4月26日に川内村東部で帰還に備えた3カ月の長期宿泊が始まったが、宿泊初日までに登録したのは18世帯40人にとどまった。対象者の1割超に過ぎない人数だ。郡山市内の仮設住宅に避難している高齢者らは「宿泊には参加しない」と口をそろえ、「線量を低く見せたいんだろ」「政府は信用できない」と訴える。支援チームの担当者は最終報告書を発表した記者会見で「隠蔽(いんぺい)ではない」と強調したが、遠藤雄幸村長は「なぜ早く公表しなかったのか。信頼関係に関わる」といぶかった。
政治家や官僚はしばしば「故郷に戻りたい人々を支援する」と言う。だが帰還を決めるのは避難者自身だ。国にはそのための判断材料を偏りなく提供する責務がある。それを果たさない調査は、一体誰のためのものなのか。国の帰還政策が本当に住民のためのものなら、政策の決定や実施までの過程も含め、必要な情報をありのままに公開するのは当然だろう。
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