葛飾区は、2012年6月に、東京都の除染基準を上回る放射線量が計測され、除染が行われています。東京都の除染基準は文部科学省のガイドラインによる「地表1mの高さで周辺より1μSv/h高い場所」というもの。その時に除染した場所は、葛飾区の水元公園(都立公園)の駐車場で、除染の方法は環境省のガイドラインに沿って行われました。
今回は、その水元公園を含め、子どもたちのよく行く場所を中心に測定をしました。
◆水元公園を測定する
金町駅に集合し、朝10時から測定が開始されました。案内をしてくださるお母さんたちと挨拶をすませ、自転車で出発です。今回は、主に自転車で移動しながら測定、そして距離のあるところは車での移動、園内は自転車か徒歩での測定です。
最初に向かったのは、水元公園。住宅街を抜けて、公園の中を自転車で走りました。
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水元公園 |
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黄色いポーチが検出器 |
測定機の検出器の高さは、地表1mのあたり。大人の腰の位置です(写真)。
水元公園は、都内で5番目に広い、のんびりとした自然豊かな都立公園です。橋のかかった大きな湖、傾斜のある大きな広場、バーベキューのできる広場、子どもの遊具のある公園が数か所点在し、売店もあります。小さい時から葛飾区で育ったというお母さんは「ここは、震災前は、私にとってオアシスでした」と言います。
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「震災前は私のオアシスでした」(水元公園) |
2011年5月、行政の測定もなく、個人の測定機もなく、放射線の知識もなかった頃に、「大丈夫なのかな……」という不安を抱えながら、水元公園への遠足に子どもを行かせてしまった、と話すお母さんもいらっしゃいました。
「水元公園は、毎年『子どもまつり』もあって、2011年の4月にも開催されたんです。もちろん、2012年も、2013年も開催されました。参加は自由ですが、約束してきたりするんです。『どうして僕だけ行けないの』と言われたら、つらいですよね」と話してくださったお母さんも。
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雨水升の上は0.2μSv/h以上になる |
公園内を、自転車で走りながらの測定は、0.04~0.16μSv/h(地表1m)という数値。ちなみにこの日は小学生が校外学習に来ていました。小学生のいた、芝生のあたりは、おおむね0.15μSv/h以下でした。
雨水升の真上に検出器を地表5cm程度まで近づけて測定すると、0.2μSv/h以上のところもありますし(写真)、道路の脇でも、地表5cmで、0.2μSv/h程度のマイクロホットスポットは存在するので、細かい測定は必要です。
「最近、西東京だと、この測定機で、0.05以上のところはほとんど見ないから、西東京と比べたらやはり高い」と、前田さん。
ちなみに、2011年5月にある会社が関東圏の公園を測定し、その結果がネット上で公表されていますが、当時は「局所的」にではなく、「面的」に0.4μSv/h以上であったことが推測されます。
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(「ニューメリカルテクノロジーズ株式会社」HPより)
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橋のふもとの溝で、0.657μSv/h |
その当時と比べると、値は低くなってきてはいるようです。
ただ、繰り返しになりますが、今回の測定でも、局所的に線量の高いところは確かにあり、橋の根本にある雨水のたまるところで、地表から10cmの高さで0.6μSv/hを超えました(写真)。
放射性物質が雨水によって流され、傾斜のふもとの溝にとどまっているようでした。
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地表10cm0.657μSv/h |
検出器を腰の高さまで上げると0.2μSv/hにはなりますが、だからと言ってそのままでいい、というわけではなく、小さな子どものことを考えると、取り除きたい堆積物です。
しかし、水元公園を管理する東京都の基準では、周辺よりも1μSv/h高い場所しか除染の対象にはなりませんし、葛飾区はというと、地表1cmで1μSv/hという基準です。同じ23区でも、豊島区では、地表5cmで0.23μSv/hが除染基準となっていますが、埼玉県は、地表1cmで1μSv/hで、葛飾と同じ。関東では、地表50cmで0.23μSv/h、という基準がよくみられます。このように、自治体によって基準が違うことによる矛盾は、今なお、至るところでみられます。
◆東水元公園を測定する
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とにかく歩き回って測定する |
次に向かったのは、東水元公園。住宅街の中にあり、子どもたちが放課後によく遊ぶ公園なのだそう。子どもの好きそうな茂みもたくさんあります(写真)。植え込みの土の部分で、0.13μSv/h(写真)。「子どもたちが、よく遊ぶから、茂みや土の部分は大丈夫かなと心配していたんです」と、立ち会ったお母さん。
測定結果はこのようになりました(マップ)。おおむね、0.04μSv/h~0.13μSv/h。
「身近に、放射能のことを心配している方はいますか?」と尋ねると、「危機感を持ち続けている人と、考え続けるのがつらくてフタをしてしまった人、自分だけの対策をしている人……3年以上たつと、保護者も様々ですね」とお話してくださいました。「3年前は、測定していると、『いくつですか?』と言って人が寄ってきたんですけどね……」
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東水元公園のマップ |
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土の部分は0.13μSv/h |
ちなみに、東水元公園のベンチの座る部分が、0.15μSv/hでした。ベンチの上が比較的高い数値を出すことがあります。それは、ベンチの下の土が、あまり動かないことによる、線量寄与ではないか、と前田さん。「子どもは、ベンチの下にはもぐらないほうがいいです」とのことです。
◆幼稚園園庭を測定する
近くにあるA幼稚園も、今回の測定で大切な場所でした。A幼稚園の園長先生が出てこられて、最初にお話してくださいました。
「園としては、園の子どもが安全であることをずっと考えてやってきています。可能な限り放射線による被曝を減らしたいと思っていますが、でも、たとえば、0.10μSv/hにしても、『低い』と思うか『高い』と思うかは人によって違います。ネット上には、さまざまな方がいらっしゃることを考えて、できれば数字や幼稚園の名前などは出さないでいただきたいです。」
良心的な園長先生でした。先生の思いもあることなので、園の名前は伏せたいと思います。ただ、震災以降の園による相当な努力の結果だろうと思われますが、事故前の数値とほぼ同じくらいという場所がありました。土遊びなどによる豊かな育ちの場を確保する前提として、何より子どもたちの安全を最優先することが必要であり、東京の環境下において本気で取り組めば、ここまでできるという事実を知ってほしくて、数値だけは公表させていただきたいと思いました。園長先生の許可を得て、数値のみ公表させていただきます。(※マップや写真は公開をひかえさせていただきます)
自然に親しめる環境で子どもがのびのび育つように、という思いの伝わる幼稚園です。園庭の真ん中には、どろんこスペースがあり、その日も、水たまりがいたるところにありました。先生が全身茶色くなって、水道で洋服ごと体を洗っていました。
園では、震災後に保護者と一緒に園庭の表土を剥ぐなどの除染を徹底的に行い、安全な土を遠方からトラックで運び込んだのだそうです。
そのせいか、園庭の真ん中付近では、どこも0.04μSv/h以下。この日はじめて、0.05μSv/h以下をみました。事故前と同じくらいの数値です。その結果に、この園に子どもを通わせているお母さんも胸をなでおろします。
「基本的に、人が踏むところは数値が下がっていく。踏まないところはなかなか下がらないんです」と前田さん。それでも、この幼稚園では、子どもたちの踏まないところ(園庭の端っこなど)も、おそらく除染がされているのでしょう、0.1μSv/h以下という結果でした。
◆花の木小学校付近を測定する
「町の美化活動で、小学生が、街路樹の根本の土に、お花を植えるんです。でも、そこが高いんです……」
次の測定場所で待っていたお母さんはそう話します。
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地表5cmで0.272μSv/h |
だいたい3mおきに並ぶ街路樹。そこに花を植える小学生の活動は、地域の人に好評なのだそう。だからといって、線量が高いところの土をわざわざ子どもたちに触らせることもありません。とりあえず、測定してみることに。
今回は、地表1mではなく、地表5cmで測定しました。
どの街路樹の根本も、だいたい0.2~0.3μSv/hあります。
「ベクレルモニタで測ってみないとわからないけれど、ここの土はキロあたり数千ベクレル程度はあるかもしれない…」と前田さん。
「マスクに軍手をして、あえてやらなくてはならない理由がよくわからないんです」
何度も、学校にもかけ合ったそうですが、中止や廃止にはならなかったそうです。
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地表5cmで0.364μSv/h |
最も高いところでは、平均化しても0.305μSv/hありました(写真)。
「どうしてもやるなら、さっきのA幼稚園のように、せめてこの部分だけでも、土を入れ替えてから、子どもたちに触れさせたらいいのに……」と、全国ネットの伊藤さんも言います。
◆水元中央公園を測る
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ベンチの下は、0.17μSv/h |
続いて向かったのはポニーのいる都立公園でした(写真)。子どもたちの遊具の先には、土の山がありました。
「山の上は低いようです」と前田さん。くまなく歩き続け、測定します。
この公園に来るまでにも、何度かベンチは測定したのですが、どこの公園でも、ベンチの下は、少しだけ数値が上がります。
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滑り台の滑り落ちるところ、0.2μSv/h |
水元中央公園の滑り台の下は、0.2μSv/hありました。
滑り台の滑り降りるところも、放射性物質が集まりやすい場所として、知られています。
ここも例外なく、そのようでした。
◆今回の測定結果
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5月30日に測定した全てのマップ。測定値を示すアイコンの色も、
青から赤まで、場所によって違うことがわかりります。 |
今なお、関東にもマイクロホットスポットは点在しています。
子どもたちの過ごす場所である公園にも、0.6μSv/hを超える局所的な汚染はありました。
継続した、細かい計測の大切さを実感します。
この日は、限りある時間の中でできるだけ測定するために、葛飾区のお母さんたちは、タイムスケジュール表を作り、前日には予行演習をしてくださったのだそう。また、測定スタッフ&同行者のために、車移動の先々に全員分の自転車を借り集めてくださいました。細やかな気配りに心から感謝しながらの測定でした。お昼ご飯もごちそうさまでした。
葛飾っ子の未来を考える会のみなさん、ありがとうございました。
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文:伊藤千亜