【福島の子供たち 健康リスクを考える(中)】
屋外活動減り肥満傾向、体力も全国平均下回る 体力テスト-消えた公園デビュー
子供への健康影響をめぐり、親たちに不安を抱かせた東京電力福島第1原子力発電所事故。放射線の影響を避けようと、屋内中心の生活を続けさせたことなどから別の課題が浮上した。福島県では体力が向上せず太り気味の子供が増えた結果、生活習慣病のリスクが懸念されている。
屋内で友達作り
福島県郡山市の加藤里香さん(31)=仮名=は長男、健一君(4)=同=を今春の幼稚園入園まで、屋外での散歩や遊びをさせずに育てた。同じ年頃の子供たちと遊ばせ始める意味を持つ「公園デビュー」をしたのは、屋内だった。
空間線量率の市内平均値は毎時0・2マイクロシーベルト前後。震災前と比べれば高いが、一般の年間の追加被曝(ひばく)線量限度(1ミリシーベルト)に達しない値だ。しかし、市内の公園で遊ぶ子は少ない。
「公園に行っても誰もいない。市が除染したと言っても、やはり危ないのかと思い、公園で遊ばせる気にはなりません。事故のとき、この子は生後半年。外遊びを知らないから『外に遊びに行きたい』とは言いません」
屋外活動を避けた結果は福島の子供たちの体力不足や肥満といった形で表れたようだ。文部科学省が小学5年と中学2年を対象に年1回実施する「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」(全国体力テスト)では、平成25年度に福島県の男女全てで全国平均を下回った。同省の「学校保健統計調査」によると肥満も増加している。小学5年男子に占める肥満傾向児(肥満度20%以上)の割合は21・3%(22年度11・8%)で全国平均の10・9%(同10・4%)を大きく上回る。
生涯にわたり影響
厚生労働省によると、肥満の子供の約7割が成人肥満に移行すると考えられている。重い肥満の場合は成人前から高血圧や糖尿病をはじめとする生活習慣病のリスクが高まるなど、肥満は生涯にわたり健康に影響する可能性がある。しかし、放射線の影響と比べて深刻に受け止められていないのが現状だ。
同市では放射線の影響に対する保護者の不安に配慮し、震災直後から体を使った遊びを室内で経験できるワークショップなどを医師会などと協力して実施してきた。
生活習慣の影響も把握するため、24年度からは全国体力テストを市内の全小中学生に実施。体力や運動、生活習慣を継続的に調査する方針だ。
協力する山梨大大学院の中村和彦教授(発育発達学)は「幼児期の過ごし方や成長期の運動習慣は少なからず5年後、10年後に影響する。運動習慣が変わると食欲や睡眠にもかかわる。食べる、動く、寝るの循環が崩れると心の育ちも心配だ」と警鐘を鳴らす。
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■一部の屋外活動、自主制限が続く
福島県教委によると、放射線の影響で屋外活動を規制した公立学校(小中高、特別支援学校)は、平成23年4月に空間線量率毎時3.8マイクロシーベルト(年間20ミリシーベルト)を超えた55校のみ。同年中に除染を終えて順次、解除した。しかし、保護者の不安は強く、市町村や学校の判断で屋外活動を2時間や3時間までとする自主制限が続いた。
昨年5月、屋外活動の一部を自主制限していた公立学校は56校。今年は16校に減ったが、「プールや屋外体育への参加を保護者判断に任せる学校もあると聞く」(健康教育課)とし、震災前には戻っていない。
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