2015年9月5日 北海道新聞 社説
http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/opinion/editorial/2-0028697.html
東京電力福島第1原発の事故で続いていた福島県楢葉町の避難指示が、きょう解除される。
全町避難の自治体では初めてだ。しかし、町内には除染廃棄物の袋が野積みされ、水源のダムには放射性物質が残る。
当然ながら住民の対応は分かれている。解除前に自宅に長期滞在する準備宿泊の希望者は、8月末で町民の1割余にすぎなかった。
医療機関や商店なども整わず、小中学校も再来年春まで再開されない。「なぜ解除を急ぐのか」という住民の声が出るのも当然だ。
国は福島の復興指針を改定し、東電を通じて支払う避難者への賠償を2017年度末で打ち切る。
国の「自立を促す」という大義名分の下、避難指示解除や賠償打ち切りを先行させれば、住民の暮らしが置き去りにされかねない。
それでは本末転倒だ。帰還の呼びかけは、除染完了後に行うのが筋だ。
楢葉町は全町が第1原発のほぼ20キロ圏内に入り、町民約7400人は30都道府県に避難している。
国側は避難解除に当たり「生活環境が整った」と説明している。
だが、現地では水道用ダムの湖底の泥から高濃度の放射性物質が確認された。水道水からは不検出というが、不安はぬぐえない。
除染廃棄物の袋は24カ所、計75ヘクタールの仮置き場に積まれたままだ。多くは田畑で、基幹産業の農業再建のめども立たない。
環境省によると、同町の宅地の除染後の空間線量率の平均は毎時0・38マイクロシーベルト。除染前より46%低減されたというが、低線量被ばくの懸念は残る。
事故から4年半が経過し、被災者の避難生活は長期化している。女性や子どもを中心に県内外で新たな生活を営む世帯も多い。
福島では既に田村市と川内村の一部地域で避難が解除されたが、帰還住民は決して多くはない。
8月末には南相馬市と川俣町の一部、葛尾村の3市町村でも準備宿泊が始まったが、参加をためらう人が多かったようだ。
国や県は、なぜ帰還希望が少ないのかを考えるべきだ。避難先での生活に慣れただけではなかろう。やはり、安全性への不安がまだ残っているからではないか。
福島県も、自主避難者への住宅無償提供を16年度末でやめ、帰還を促すという。
避難が長引けば自治体が崩壊しかねない―。そんな懸念もあるのだろう。だが、何よりも大切なのは住民の安全安心だ。
0 件のコメント:
コメントを投稿