2015年9月4日 産経新聞
http://www.sankei.com/region/news/150904/rgn1509040065-n1.html
東京電力福島第1原発事故から4年半近くが過ぎ、子供たちへの放射線教育の多様性が広がっている。放射線については、科学的な側面から学ぶ内容が中心だったが、原発事故による社会的な影響を考える授業も行われている。(大渡美咲)
福島市の福島第1中学校で7月、「一緒に放射能のことを学んで、考えて、話してみよう」が開催された。子供を支援する国際組織の公益社団法人「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」(東京都千代田区)が平成25年から県内の中学校と協力して行っている授業だ。
授業は各グループに分かれ、日本に留学中の外国人からの質問について考える内容。中国などの留学生からは「将来の放射能の影響は怖くないか?」「避難者が帰るまでどのくらいかかるのか?」「将来、福島の復興に関わりたいか」などの質問があった。
生徒からは「もう帰れないのではないか」「安全な線量になるまで」「除染をしているので平気だと思う」「修学旅行先で福島は大丈夫なのか聞かれた」「将来は被曝(ひばく)の影響が出るかもしれない」などさまざまな意見が出た。
◆経験したからこそ
震災直後に県外に避難した多田明日香さん(14)は「抵抗ある生徒もいて、原発事故の話はしたことがなかったので、機会を作ってもらったのはよかった。経験をした私たちだからこそできることもある」と話した。
福島市の放射線教育に携わる同中学の理科教諭、菅野(かんの)泰英さんは「同じ県内でも双葉郡などと比べ、福島市に住む生徒は避難者との距離感が遠く、想像するのが難しい部分がある」と指摘する。事故から時間が経過する中で、社会問題や生き方、差別など原発事故がもたらした影響についても学ぶ必要を強調。「原発事故後は、ナーバスな部分があってあえて放射線教育を授業に取り入れていなかった。時間の経過とともに教えることも変わっていく」と話す。
「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」の担当者も「避難体験などがなくても将来、日本を出て世界に出たとき福島の人として見られる可能性がある。自分の言葉で説明、発信できるようになってほしい」と意義を説明する。繊細な問題のため、子供同士でも原発事故について意見を言い合う機会が少ないことから、不安や疑問を共有する場を持つことは大事だという。
◆教諭の育成に課題
一方で立場の違いや政治的な問題なども絡み、学校教育で触れていくのは難しい側面があるのも事実だ。菅野さんは「(原発事故から)時間がたって問題が多様化しており、教員だけでは限界がある。民間と協力しながら進めていきたい」と話す。
「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」はこうした授業を基にしたテキスト作りも進めている。菅野さんは「子供たちにどう伝えていくか、放射線教育ができる教諭をいかに育てていくか、10年、20年後を見据えて今やっておく必要がある」と力を込めた。
0 件のコメント:
コメントを投稿