2015/09/01

避難解除へ準備宿泊始動 福島3市町村、登録は1割未満

2015年9月1日 朝日新聞
http://www.asahi.com/articles/ASH805TZKH80UTIL03M.html
 

準備宿泊が始まった3市町村と周辺の避難指示区域
東京電力福島第一原発事故で避難指示が出ている福島県の3市町村で31日、住民の帰還に向けた準備宿泊が始まった。避難先への定住が進む中、政府は解除を急ぐことが住民の生活再建に不可欠と判断した。本格帰還に向け、残りの自治体でも除染やインフラ復旧などの条件整備を進める方針だ。ただ、3市町村に準備宿泊を登録した人は8月30日時点で計1265人と、対象の1割未満にとどまる。
 

第一原発周辺の10市町村では今も約7万9千人に避難指示が出ている。このうち、今回準備宿泊の対象となり、自宅で長期宿泊ができるようになるのは、
南相馬市小高区などと、川俣町山木屋地区、葛尾村の計約1万4千人。これまでで最も多い。南相馬市小高区でコメと野菜を育ててきた佐藤和夫さん(85)は31日、仮設住宅から自宅に戻り、先祖の墓参りをした。「我が家は空気がうまい」と喜んだ。

政府は
放射線量が高い帰還困難区域を除く避難指示区域について「2017年3月までに戻れるようにする」との目標を掲げている。このうち、3市町村は除染などが進む見通しが立っているとして、準備宿泊の開始を決めた。

3市町村は来春の指示解除を目指す。生活の不便さや、放射線への不安も残るが、「帰れない理由を言い続ければずっと帰れなくなる」(
葛尾村の松本允秀村長)などとしている。

政府と自治体が解除を急ぐ背景には、避難の長期化による住民の健康悪化がある。県内では、
仮設住宅暮らしのストレスと体調悪化による「震災関連死」が自殺も含めて約2千人に上る。南相馬市の要支援・要介護者は震災前の11年1月から今年5月にかけて2割増えた。葛尾村幹部は「このままでは故郷に戻れないまま命を落とす人が増える一方だ」という。

避難指示が解除されないと、区域内に入らない建設業者も多いとされる。指示の解除によって、住宅再建などを進めて生活環境の改善を促す狙いもある。

政府は9月5日、楢葉町(約7400人)のほぼ全域に出ている避難指示を解除する。役場とともに避難している7町村では初めて。
南相馬市など3市町村も、宿泊期間が終わる11月に期間を延ばすか、指示を解除するか判断する。他の自治体も順次、準備宿泊をへて解除していく方針だ。

一方、
帰還困難区域は全域除染が難しいとして、政府は一部だけを復興拠点として開発する方針。解除のめどは立っていない。

■住宅の再建が課題に
準備宿泊を登録した人が対象の1割未満にとどまるのは、若い世代を中心に、職場や子どもの学校がある避難先で家を買うなどの動きが進んでいるためだ。

そうした現状を踏まえ、
竹下亘復興相は「(地元に)帰る、あるいは別の地域で新たな生活を踏み出したい人には踏み出してもらうことを積極的に進める局面になっている」と話す。

一方、準備宿泊について
福島県の内堀雅雄知事は31日、記者会見で「肝になるのは安全安心の確保。医療や教育、買い物ができる商業圏が確保されていなければ安心して準備宿泊にのぞめない」と指摘した。

課題の一つが住宅の再建だ。津波や地震の被害に加え、避難の長期化により多くの家が荒廃したが、復興需要による人手不足などから修繕や解体、新築の作業は遅れている。
葛尾村から避難中の石井一夫さん(59)は事故前に経営していた食堂兼自宅が雨漏りなどで朽ち、使えなくなった。「長年のお客さんのために再開したいが、来春には間に合わない。長い目で準備するしかない」と話す。

対象地内の宅地
除染葛尾村と川俣町では終わったものの、南相馬市ではまだ26%しか済んでいない。地域の産業や商工業の再興も課題だ。南相馬市の桜井勝延市長は31日の会見で「住民の最大の不安は除染環境省には遅れのないよう進めてほしい」と話した。(高橋尚之、根岸拓朗)

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