http://mainichi.jp/articles/20160628/ddf/041/020/018000c
沖縄電力を除く電力9社の株主総会が一斉に開かれた28日。神戸市中央区で開催された関西電力の株主総会には、東京電力福島第1原発事故で福島県田村市から金沢市に自主避難している浅田正文さん(75)が株主となって初めて出席し、脱原発などを求める議案の説明に立った。原発再稼働を目指す関電の経営陣に「廃炉で一歩先んじる電力会社になろう」と呼びかけた。
大手食品会社のコンピューター技術者を務めていた。阪神大震災が起きた1995年、「人生の後半は田舎でのんびり暮らしたい」と早期退職し、東京都世田谷区から福島県都路村(現・田村市)に移住。自然農法による自給自足の生活を始めた。
四季の変化は美しく、住民たちも農地を無償で貸してくれたり、農作業のやり方を教えてくれたりと温かく迎えてくれた。村内に廃棄物の処分場を設置する計画が持ち上がった際には、村議に立候補して当選し、反対運動を盛り上げて計画を断念させた。
原発に疑問を抱くようになったのは移住後だ。自宅は福島第1原発から約25キロの距離にあり、東京では報道されない細かいトラブルをニュースで目にする機会が増えた。東電株を取得して株主総会に出席し、脱原発の提案をするようになった。
そんな中で2011年3月の事故が起きた。除染対象となっていない近所の雑木林の山菜からは、高濃度の放射性物質が検出されており、自給自足の生活は難しくなった。事故後に自ら命を絶った知人もいる。「二度とこんな悲劇を繰り返してはならない」。東電や避難先の金沢市を管内とする北陸電力の株主にもなり、総会で脱原発への転換を訴えた。
今回、関電の株主総会に出席しようと思ったのは、再稼働への動きが加速しているからだ。関電は福井県内に持つ9基の原発の再稼働を目指しており、最近も高浜原発1、2号機の40年を超える運転が原子力規制委員会に認められたばかりだ。「原発銀座」と呼ばれる福井・若狭湾の地図を眺めるといつも心配になる。「1カ所で事故が起きた時、周囲の原発は本当に管理できるのか」と。
株主総会では、福島の小学生が事故後につづった作文を読み上げた。「地震や津波や原発事故で、なくなった人やけがをした人がたくさんいます。震災の経験をむだにせず、ぼくたちの手でよりよい地球をつくりだしていかなければならないと思います」。この願いは浅田さんの思いとも重なる。【大久保昂】
福島原発事故で金沢市に自主避難している関電株主の浅田正文さん
=神戸市中央区で2016年6月28日午前9時58分、大西岳彦撮影
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株主反応さまざま
神戸市中央区で開かれた関西電力の株主総会の会場周辺では、市民グループなどが横断幕を掲げ、脱原発議案に賛同するよう呼びかけた。株主からはさまざまな反応があった。
岡山市東区の男性(85)は「原発はなくした方がいい。福島のような事故が起きないとは断言できない」と話した。大阪府交野市の男性(63)は「長期的にはゼロを目指すべきだ」としつつ、「現状では原発を動かさなければ電気料金が下がらず、中小企業は困る。当面は使うしかないのでは」と複雑な心境を明かした。兵庫県西宮市の男性(76)は「厳しい安全基準を課しているのだから信用するしかない。復配に向けて早く動かすべきだ」と主張した。【大久保昂】
「このままなら」株式売却も示唆 吉村大阪市長
関電の株主である大阪、京都、神戸の3市の市長が総会に出席し、意見表明をした。
神戸市の久元喜造市長は「高浜原発3、4号機の運転差し止めの仮処分決定で、電気料金値下げが見送られた。経営基盤を原発に依存している関電の体質では顧客の引き留めもできない」と批判した。
京都市は脱原発を求める株主提案などをした。門川大作市長は「福島原発事故の傷痕は深刻。関電は原発依存から抜け出すべきだ」と意見を述べた。
関電株を8・92%保有する筆頭株主の大阪市は、取締役の定数を半減させた上で過半数を社外取締役にするよう求める株主提案も行った。吉村洋文市長は総会での発言後、報道陣に「このまま経営刷新を図らないのなら、大阪市が株主であり続けるのはどうか」と述べ、株式を売却する可能性も示唆した。
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