http://www.tokyo-np.co.jp/article/tochigi/list/201606/CK2016061102000169.html
宇都宮市の市立小学校で五月、給食として提供されたタケノコから、国の基準値(一キログラム当たり一〇〇ベクレル)の二倍を超える放射性セシウムが検出された。この問題を通して見えたのは、放射性物質の検査体制と、出荷段階のチェックという二つの課題。「安全」という前提に立った対応が、必ずしも完全ではないことが浮き彫りになった。(後藤慎一)
「給食を食べてから検査の結果が分かるのを知らなかったので、『えっ?』と思った」。宇都宮市の小学校に小学四年生の長女(9つ)を通わせる主婦(44)は、驚きを隠さなかった。
今回の件で浮かび上がった課題の一つは、給食に使う食材に問題がないかを確認する放射性物質検査なのに、給食の前に検査結果が出ず、子どもたちの口に入った後に判明したという点だ。
宇都宮市では東京電力福島第一原発事故後の二〇一一年十月から、学校給食に使う野菜などの検査を自主的に続けている。全ての市立小中学校に私立校も含め、計九十七校でほぼ月に一度、それぞれ一品ずつ選んで行う。市立保育園や希望する民間の保育所なども取り入れている。
ただ、食材は国が定めた「学校給食衛生管理基準」に沿って調理する当日に仕入れており、学校農園の野菜以外は当日に検査していた。このため、異常の有無が分かるのは給食後だった。形式的な確認作業にとどまり、不安を取り除くための仕組みとして十分に機能しなかった。
「震災後、五年がたち気が緩んでいるということもある。食材に関して危機感を持ってやらなければならない」。問題発覚後、市の教育委員からは厳しい指摘もあった。
こうした実態を改善するため、市は五月下旬から、検査体制を調理の当日から前日に前倒しした。「問題があった場合、子どもたちが口にしないような対応ができる仕組みに見直した」と強調する。
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もう一つの課題は、本来なら市場に出回るはずのない「出荷制限区域」の食材が安全な食材に混ざり、学校に搬入されたことだ。
原発事故の直後、県内でもさまざまな品目から放射性物質が検出され、国から出荷制限を受けたが、その多くは時間の経過とともに解除された。県は幅広い食品を対象に、今も定期的なモニタリング検査に取り組んでいる。
制限がかかった産地の品目は、出荷が厳しく縛られる。そうすることで、他の産地の安全性が確保されてきたとも言える。ただ、現場では徹底されていなかった。県の担当者は「あってはならないことが起きてしまった」と唇をかむ。
今回のケースでは、卸売業者にタケノコを納めた出荷者の男性が、出荷制限を受けている大田原市産のタケノコを宇都宮市産に含めていたのが原因だった。この男性は、大田原市産が出荷できないことを「知らなかった」と県に話した。
出荷の段階で確認が甘かった面もあり、県や宇都宮市は、入荷前の産地確認を直売所や市場に徹底。出荷者には、出荷制限の品目をあらためて周知した。
人の口に入る食材の提供が、出荷者のモラル次第では許されない。検査と監視の両面でチェックする体制を長く続けていく必要があると感じた。
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<宇都宮市のタケノコをめぐる経緯>
市立横川西小学校で5月10日、給食のたけのこご飯に使われたタケノコから、市の簡易検査で基準値を超える放射性セシウムを検出。県の精密検査でも、最大で1キログラム当たり234ベクレルを検出した。児童と教職員の計約560人が食べたが、体調不良を訴えた人はいなかった。市が翌11日、調理済みの給食の取り置き分を検査した結果、放射性物質は検出されなかった。
検査機器にかける検体のタマネギを 刻む女性 |
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