2016年9月16日 教育新聞
https://www.kyobun.co.jp/news/20160916_06/
3.11の福島原発事故を受け、「科学的な視点に立って放射線教育を実践できる中学校教員の養成が急務」と、北海道教育(H)、愛知教育(A)、東京学芸(T)、大阪教育(O)の教員養成4大学が、「HATO放射線教育プロジェクト」に取り組んでいる。9月には理科教員志望の学生らに、4日間にわたる合同集中授業を行った。同プロジェクト責任者の鎌田正裕東京学芸大学教授に、3.11以降の放射線教育と、4大学の取り組みについて聞いた。
――プロジェクトの概要は。
この放射線教育プロジェクトは、文科省の国立大学改革強化推進補助金によって始まった、4大学連携によるプロジェクト「大学間連携による教員養成の高度化支援システムの構築―教員養成ルネッサンス・HATOプロジェクト」のサブプロジェクトで、平成24年度末に始まった。HATOは4大学の頭文字。「科学的な視点に立脚して放射線教育を実践できる中学校教員の養成」が目的。テーマとして放射線教育が選ばれたのは、社会的要請によるところが大きい。
――社会的要請とは。
3.11の原発事故以降、私たちの日常生活も社会生活も、放射能や放射線とは切っても切れないものになっており、すべての国民が、少なくとも基礎的な知識を有しているべきと考えられている。だが、昭和44年改訂の学習指導要領を最後に、約30年間、放射線については中学校理科の授業では取り上げられてこなかった。平成20年の中学校学習指導要領改訂で、中学校3年生の学習内容に「放射線の性質と利用にも触れること」が加えられたものの、現在の中学校には、放射線について指導した経験のある教員が非常に少ない。放射線教育にさらなる充実が求められるようになってきた。単なる座学による指導だけでなく、安全で効果的な実験や実習を通して、放射線教育を指導できる理科教員の養成が急務だ。
――養成のための具体的な取り組みは。
実験・実習や講義を通して学生に指導しているほか、そこで用いた実験のやり方を映像化し、ビデオクリップを作成している。また講義内容をPDFとパワーポイントにした授業パッケージも作っている。他の教員養成系大学に出向いて出前講義も行った。ビデオクリップや授業パッケージはネットで公開し、他大学の教員や学生の他、誰でも無料で見られるようにする。理工系の学科などでの放射線教育と違うのは、あくまでも「将来教員になったときに、こう教えたらいいよ」とか、「これは知っていないと困るよ」という、教員養成のための放射線教育を重視している点だ。これまでに行われていた教育とは質が違う。また放射線源にしても、研究所にしかないような特殊なものでなく、身近なものを利用している。大気中のほこりを集めて放射線量を計測したり、ラジウム温泉のお湯を持ってきて測ったりしている。温泉のお湯を使った実験なら、学校現場でも受け入れられやすい。どこかから放射線源を買ってくるとなると、それはやめてほしいという力が働くが、身近なものなら比較的、そうした力は働きにくいだろう。
――どういう教員を育てたいか。
放射線だけ分かればいいのではなく、教員になったら、例えば遺伝子組み換え食品の可否など、さまざまな問題を生徒から聞かれるだろう。そのときに、「怖い」「天然だからいい」「人工だから危ない」といった曖昧な知識で判断するのではなく、科学的に見てどう対応すればいいのか、どのように考えればよいかの判断ができる教員を最終的には目指していかなければならない。世界のさまざまな人たちと暮らしていくには、共通のベースとして、こう考えていこうという基準がなければ、風評被害が起き、国同士で責任の押し付け合いになる。まだ先の話ではあるが、リスクの捉え方や、どう判断するか、どう調整していくかを、教員が生徒に伝えられるといいと思う。私自身は、そういう気持ちでやっている。
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鎌田正裕東京学芸大学教授
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