2016年09月20日 読売新聞
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20160919-OYT1T50081.html
帰還を望む住民の心情に配慮し、復興後の街の具体的な姿を早期に示すことが肝要だ。
東京電力福島第一原子力発電所事故による「帰還困難区域」について、政府は優先地域を決めて、来年度から除染を本格的に行う方針を示した。
年間の被曝ひばく線量が2012年3月時点で50ミリ・シーベルト超だった帰還困難区域は依然、立ち入りが厳しく制限されている。この区域の帰還方針が示されたのは初めてだ。
区域は、大熊、双葉、浪江各町など、福島第一原発周辺の7市町村にまたがる。
今回の方針の特徴は、役場や駅を中心とした「復興拠点」を設定し、そのエリアに限った整備計画を策定することだ。政府は除染と同時に、道路などインフラの整備も進める。22年をめどに避難指示を解除し、帰還を可能にする。
帰還困難区域全体の除染には巨額の費用を要する。効率性の観点から、対象地域を絞って作業を進めるのは、適切な措置だ。
線量が比較的少ない居住制限区域、避難指示解除準備区域では、既に5市町村で避難指示が解除された。他の4町村でも、来春の解除を目標に、避難住民の長期宿泊などが行われている。
だが、解除された地域では、住民の帰還が思うように進んでいない。昨秋に解除され、帰還のモデルケースとされる楢葉町でも、戻った住民は1割程度だ。
医療機関や商業施設といった生活基盤の整備が十分ではない。それが、避難住民が帰還に二の足を踏む主な要因だろう。若い世代には、戻ってからの雇用や子供の教育に関する不安も大きい。
帰還困難区域の場合、戻れるにしても、6年先のことだ。生活設計を立てるのは難しい。
現時点で、復興拠点の場所や整備の内容などは未定だ。避難住民の帰りたいという願いに応えるよう、ふるさとの姿を早期に示すことが大切である。
帰還を諦め、県内外で生活を立て直している避難住民も多い。復興庁による昨年の調査では、「戻りたい」と答えた住民は、原発がある大熊、双葉両町でそれぞれ11%、13%にとどまった。
故郷がどのような形で再生すれば、帰還を考慮するのか。各市町村は、避難住民の要望をきめ細かくすくい上げ、整備計画に反映させてもらいたい。
福島の復興が進む中、帰還困難区域が「取り残された地域」とならないよう、政府は引き続き、支援に全力を挙げる必要がある。
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