2015/01/06

山形の酒・加工品「甦る」 福島避難者と合作 /岩手

 ◇「福幸ファーム」足場に

 純米吟醸酒「甦る」、酒粕を使ったまんじゅう「甦る」、ソーセージ「甦るフランク」、ジューシーな「サイコロハンバーグ」−−食べると酒のほのかな香りが口中に広がる。どれも、福島からの避難者と山形県長井市の人たちが一緒に作った食品だ。

 福島県いわき市出身で、今は長井市のNPO法人で働く村田孝さん(49)が興奮気味に語った。「避難者で農業をしようと思いついた。それを地元の人たちが受け入れてくれたんです」

 震災前、村田さんはいわき市で塾講師をしていた。震災と原発事故でやむなく故郷を離れ、兄が暮らす長井市に家族と避難した。

 村田さんはある日、地域循環型農業に取り組む長井市のNPO法人「レインボープラン市民農場」の酒席に招かれ、地酒「甦る」を振る舞われた。地元の酒蔵「東洋酒造」が、在来品種の米「さわのはな」で造った酒。在来種をよみがえらせたいという思いを込めた酒だった。しかし、東洋酒造は後継者不足で廃業が決定。村田さんは「新天地で生き始めた自分にぴったりの米と酒。なくしたくない」と思ったという。

 当時、長井には福島からの避難者が約300人いた。村田さんは避難者による「さわのはな」造りを思い立ち、NPOから休耕田を借りて集いの場「福幸(ふっこう)ファーム」をつくった。

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 村田さんの思いを助けたのが、福島県浪江町で酒造りをしていた「鈴木酒造店」の杜氏(とうじ)、鈴木大介さん(41)だ。

 江戸末期から続く酒蔵を津波で流された鈴木さんは、山形に避難して新たな酒造りの拠点を探していた。そこに「東洋酒造を引き継がないか」と声がかかる。鈴木さんは「鈴木酒造店長井蔵」を新たに設立し、自分の酒「磐城寿(いわきことぶき)」復活に取り組み始めていた。村田さんは鈴木さんに「一緒に『甦る』を造りませんか」と声をかけた。

 最初はためらった鈴木さんの気持ちは、村田さんの熱意で次第に変化した。「避難者が育てた米で避難者が酒を造る。故郷を離れたみんなが強く生きるための象徴になる。面白いな、断れないなと思いました」

 2013年2月、村田さんたちが栽培した「さわのはな」を使った最初の純米吟醸酒「甦る」が完成。避難者が稲作から醸造まで手がけたことが話題を呼び、初回の700本はあっという間に売り切れた。

 酒造りで生まれた酒粕にも声がかかった。市内の和菓子屋、ケーキ店、肉屋が酒粕の利用を思いつき、「甦る」ブランドのまんじゅう、ソーセージ、ハンバーグを開発した。今も定番商品として根強い人気だ。

 長井市で宴会場を経営する村田さんの兄剛さん(53)は「人口が減っている長井のにぎわいを取り戻したいと考えていたら、福島の人が刺激を与えてくれた」と振り返る。

 鈴木さんは今、福島・浪江町産の米を使った磐城寿復活にも取り組む。土地の除染などでコストはかかるが、「安全、安心でおいしい酒を造ることが復興のシンボルになると思います」と語る。

 4年目を迎える福幸ファームは、キャベツなどの野菜作りにも挑戦している。


http://mainichi.jp/area/iwate/news/20150106ddlk03040079000c.html

うめえ東北:/5 
毎日新聞 
2015年01月06日 地方版

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