2015/01/09

朗読劇に自身重ね 避難の女優、原発事故の不条理訴え /石川

 東日本大震災による東京電力福島第1原発事故に伴い、東京から金沢市に自主避難を続ける女優がいる。放射能の影響を不安に思う胸中を周囲に受け止めてもらえず、やるせない思いも募らせた。そんな中、福島県の被災者をモデルにした朗読劇に出合い、出演者として表現する喜びをかみしめつつ、事故の不条理を訴えている。

 宇都宮市出身の市井(旧姓・今野)早苗さん(36)。高校卒業と同時に女優を志して上京、東京の小劇団に所属しながら舞台を中心に活躍した。出演した映画で知り合った映画監督の市井昌秀さん(38)と2007年に結婚した。

 2011年3月11日、昌秀さんと2人の息子と暮らしていた東京で地震に見舞われた。原発の情報を得ようとツイッターを始めたが、「外には出るな」「マスクで防御しろ」などとさまざまな情報が飛び交っていた。長男颯(はやて)君(7)が当時通っていた幼稚園に向かって風が吹けば放射性物質が飛来するのではと案じ、口にする水や野菜は宅配で九州から取り寄せた。

 「先行きが見えず心身ともに追い詰められていった」

 平穏な暮らしを取り戻したいと12年3月、富山県内にある昌秀さんの実家に母子3人で身を寄せた。知人に避難して来た事情を話したが、「東京にいたのに大げさだ」と取り合ってもらえなかった。

 転機となったのは13年3月、避難者に紹介されて訪れた金沢市での避難者の集いだった。「気持ちを共有できる」と感じ、昨年3月、金沢に移り住んだ。

 間もなく、集いの参加者で東京から自主避難していた劇団主宰者の奈良井伸子さん(45)から朗読劇「空の村号」への出演を誘われた。全村避難を強いられた福島県飯舘村の酪農家をモデルに、故郷喪失や家族離散の苦悩が描かれていた。台本を一読し、快諾した。

 任されたのは、主人公で酪農家の息子「空」の妹「海」の役。原発事故で誰を責めていいのか分からない葛藤を吐露する役柄に自らの境遇が二重写しになった。

 避難者や石川在住の劇団員ら約10人で金沢などで昨年7月から5回公演を行った。観客の避難者からは「気持ちを代弁してくれているようだった」との反響も寄せられた。震災4年に合わせ、3月11日には金沢市大和町の金沢市民芸術村でも予定している。

http://mainichi.jp/area/ishikawa/news/m20150109ddlk17040561000c.html
毎日新聞 
2015年01月09日 地方版

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