2015/01/16

どうする被曝と健康 石井正三・日本医師会常任理事 健康支援へ国の直接関与必要


2015年1月16日 朝日新聞 より
http://apital.asahi.com/article/story/2015011600015.html?iref=comtop_btm



 いしい・まさみ 1975年、弘前大学医学部卒業。いわき市立総合磐城共立病院などを経て、86年から石井脳神経外科・眼科病院理事長(いわき市)。日本医師会で救急・災害医療などを担当。世界医師会副議長も務める

 ――日本医師会と日本学術会議は昨年、東京電力福島第一原発事故に伴う住民の健康支援について提言をまとめた。その中で、国や県、専門家などの健康支援対策への信頼回復が必要だと指摘している。

 原発事故以降、住民の間には、国や県、医療者や放射線の専門家などへの不信感が根強くあることを実感してきた。事故後の情報開示の不足や、健康対策が必ずしも被災者の立場に寄り添ったものではなかったからだと思う。

 提言では、健康支援を担うすべての関係者が住民の信頼を回復する努力が改めて必要だとの共通認識を示した。私も、住民の不信の解消に向け、地域の医師として、また医師会活動を通じて協力していきたい。

 ――県内で実施している「県民健康調査」は当初、「県民健康管理調査」という名称だった。県議会などで「『管理』は上から目線だ」と批判が出て、昨年4月に「管理」が削除された。

 名称変更の必要性は、日本医師会として調査開始の当初から関係者に申し入れていた。個人の情報はしっかり「管理」するべきだが、被災者の健康は、むしろ「支援」の対象ではないのか、と考えている。

 ――健康支援を行う際には、どのような目線が必要だと考えるか?

 被災者を含め、あらゆる人には、心身の健康を享受する権利、つまり「健康権」があると認識することだ。原発事故による被曝(ひばく)や避難により、被災者の健康権が侵害されていると解釈できる状態にある。国や県はそれを踏まえて長期的、多面的に支援してほしい。

 ――提言では、健康支援のためのナショナルセンターの設置も求めている。

 現在、県民の健康調査の実施に国は直接関与していない。また、健康支援は、県民だけでなく原発や除染の作業員、隣接県の住民ら幅広い人たちにも必要だ。そのため、幅広い人々を対象にした健康支援の実施に国が関与する、象徴となるようなセンターの設置を求めている。

 ――具体的にはどのような機能をもったセンターを想定しているのか?

 住民や原発作業員などが折にふれて健康相談ができる、専門家が常駐する支援のためのセンターの設置がいわきの市民団体などの願いだ。また、どこかで万が一、原発事故が起きた場合に医療対応を担えるような人材を育成する機能を兼ね備えることも必要だろう。

 設置場所については、いわき商工会議所などが中心になり、放射線医学総合研究所(千葉県)の支部の誘致活動が行われており、11万人近くの署名が集まっているという。いわき市は地理的に福島第一原発から近く、避難している住民も大勢いる。放医研の支部を核としたナショナルセンターの誘致構想には大きな期待がある。

 ――医師会は、県民だけでなく、隣接県の住民に対しても、被曝の健康影響について支援が必要だと訴えている。

 放射性物質の飛散は、福島県の県境で止まったわけではなく、他県にも「ホットスポット」と呼ばれる、土壌の放射性物質濃度の高い所ができた。そのため、健康支援を県境で区切るのではなく、国の責任で、希望するすべての人が受け入れられるような健診や検査の態勢を整えるべきだ。

 ――医師会と学術会議は、健診のデータベース構築も提言している。

 被曝の健康影響は、何十年も経ってから出ることもある。国際的な専門家による検証にもたえうる、長期にわたったデータベースの構築が必要だ。その際、様々な健診のデータを共通した形式で蓄積していくことが重要だ。県民や隣接県の住民、原発作業員などの健診や健康調査のデータに加えて、国や自治体が実施する、様々な健診データなどとも統一するべきだ。



0 件のコメント:

コメントを投稿