2015/01/09

甲状腺の被曝線量別に比較を 渋谷健司・東京大学教授 

[甲状腺がんは確かに一般には進行が遅い、もっていても気づかずに亡くなる人も多い、と言われていますが、福島でこの間、悪性と診断され、手術されたケースは、無症状とはいえ、リンパ節や肺への転移が見られるなど悪性と発表されています。]

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 ――今年度から始まった県の甲状腺検査の2巡目では、昨年10月末現在で4人が甲状腺がんの疑いと診断された。うち2人は1巡目では結節(しこり)も何もなかった。この結果から何が言えるのか?

 2巡目検査がもっと進んで多くのデータが出ないと、確かなことは何も言えない。ただし、4人のうち2人は、1巡目では5ミリ以下の結節などがあったので、それが大きくなったと考えられる。

 ――1巡目では何も無いと診断されていた2人はどんな可能性があるのか?

 超音波検査も感度は100%ではない。一つは、1巡目の時点で小さな結節があったのに見つけられなかった可能性がある。また、1巡目検査の後にがんが発生し、急激に大きくなった可能性もあるが、甲状腺がんは一般的に成長が比較的ゆっくりなので、この可能性は低いと思う。

 ――1巡目と2巡目の結果はどんな比較が必要か?

 1巡目で異常なしだったのに2巡目でがんの疑いが出てきた人の、年齢や性別などの詳細な比較が重要だ。また、1巡目で2次検査が必要だという「B判定」だったが、2巡目は異常なしになった人や、結節などの大きさが小さくなった人がいないのかも調べ、県民に公表するべきだ。

 ――昨年5月、英医学誌「ランセット」に、福島の甲状腺検査のあり方を再考する必要があるという渋谷さんの小論が掲載された。

 甲状腺検査が始まったのは原発事故の健康影響が心配されたからで、県民のその気持ちはよく分かる。しかし、検査しなければ一生見つからず、しかも見つからなくても死亡するリスクは無く、切る必要もない甲状腺がんを多数、診断している可能性がある。県民の不利益となるので、注意喚起の文章を書いた。

 ――「過剰診断」が起きているということか?

 そうだ。1巡目では1万人あたり約3人という高い有病率だった。被曝の影響の可能性は低く、過剰診断の可能性が高い。

 無症状の子どもが、必要の無い針を刺す検査と手術を受け、一生、傷を負う。そんな検査や手術が必要かどうか、最終的には検査を受ける県民全体の価値判断だと思うが、過剰診断の可能性があることをきちんと説明した上で判断を仰ぐべきだ。

 ――検査の枠組みも再考が必要か?

 現行の枠組みでは、そもそも被曝の影響が有るのか無いのかわからない恐れがある。

 ――現行では、2011年秋~14年3月末に実施した1巡目の検査結果と、2巡目以降の検査結果を比較する計画だ。これでは被曝の影響があるかどうかわからないのか?

 同じ集団を時期を前後させて比較するだけではわからない可能性が高い。年齢や性別、喫煙などの生活習慣や環境など、発がんに影響する因子が多数あり、今のままでは被曝の影響だけを抽出するのは難しい。

 ――どんな枠組みにしたらいいのか?

 通常の疫学調査では、病気の原因への暴露量の多いグループと少ないグループで疾患の発生率を比較する。福島の場合は、調べたい原因は被曝だ。今のように個人の甲状腺の被曝線量がわからない状態でいくら調査しても、被曝の影響の有無は結論が出ない。甲状腺被曝線量の推計にもっと力を入れ、被曝線量の多いグループと少ないグループでの比較が必要だ。

 ――県立医大では、浜通りと中通り、会津地方の比較をしている。

 浜通りと言っても、原発事故の直後に避難指示が出た自治体もあれば、しばらく住民がとどまった自治体もあり、避難行動によって被曝線量は異なる。もっときめ細かく比較した方がいい。疫学の専門家として、よりよい枠組みの構築などに協力できることは何でもしていきたい。

 しぶや・けんじ 1991年、東京大学医学部卒業。専門は国際保健政策学。世界保健機関などを経て、2008年から現職。医療政策シンクタンク「JIGH」理事長も務める。県民健康調査の甲状腺検査評価部会のメンバー

http://apital.asahi.com/article/story/2015011000004.html
朝日新聞 
2015年1月9日

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