~東京電力福島第一原子力発電所事故の放射線被ばくによる健康影響を科学的に究明し、防護と対策を実現するために~
東京電力福島第一原子力発電所事故は、
福島県とその周辺地域を中心に、東日本やその海域、
さらには北半球全体を放射能で汚染し、
現在もなお放出が続いています。汚染地域の人々(子ども、市民、
事故処理作業員)の不安は、放射線被ばく、
とくに低線量被ばくの健康被害がまだよく分かっていないこと、
そして何よりも政府の情報と放射線防護、
放射能対策が信用できないことでいっそう助長増長されています。
いま求められているのは、
経済的コストではなく住民の健康被害を極小化するための、
予防原則に立脚した前向きの放射線防護、放射能対策です。
私たちは3.11以後、毎年、政府や産業界、
そしてその影響を受けた学会の主流から独立した立場を貫いてきた
専門家(市民科学者)を集めた国際会議を開催して、
放射線の健康被害に関する最新の科学的知見を学び、
よりよい放射線防護、放射能対策の在り方を検討してきました。
過去3回の会議から、
主として次のような点が浮き彫りになりました:
現在の放射線防護の根拠とされている国際放射線防護委員会(
ICRP)
の勧告が放射線の健康被害の過小評価に基づいている疑いがあるこ
と。
事故直後の放射能プルームによる被ばくの実態はほとんど分かって
おらず、
健康被害を明らかにするためにはその再構築現構築が不可欠である
こと。
放射線の健康被害はがんに限定されるものではなく、
がん以外のさまざまな疾患をもたらし得ること。
チェルノブイリ原発事故後観察されてきた動物の異変の一部がすで
に福島県内でも観察されていること。
現在、日本で年間被ばく線量20mSv(あるいは100mSv)
があたかも健康被害の閾値であるかのような言説が公式に行われて
いること。
これらの成果は、国内の有力科学誌に発表するとともに、
私どものwebサイト(
csrp.jp)
を通して内外に公表してきました。
2014年11月の第4回「市民科学者国際会議」では、
これまでの成果を踏まえて、
放射線による健康影響とその対策についてさらに議論を深めるとと
もに、
とくに放射線のリスクコミュニケーションの現状とそのあるべき形
にも焦点を当て、
国際的なネットワークを広げることをめざします。
第4回 市民科学者国際会議の焦点
昨年の10月に行った第3回市民科学者国際会議の前日に、
日本政府は「原発事故 子ども・被災者支援法」の基本方針を閣議決定しました。
その内容は、多くの被災者、支援者、法律家、
立法に携わった国会議員、
そして支援対象地域の指定を要請してきた東北および関東の諸自治
体の期待を裏切るものでした。
年間の追加被ばく線量1mSv以上の場所を対象地域に指定するこ
とが国会で議論されていたにもかかわらず、
実際の対象地域とされたのは福島県内の33市町村のみでした。
また、避難者・移住者・居住者・
帰還者に対する平等な権利と補償が法に明記されているにもかかわ
らず、法の実際の運用は、不平等であり、
人口流出を防ぐ方針に拍車がかけられています。
放射線防護の観点から特に懸念されるのは、この基本方針が、
よりリスクコミュニケーションに重点を置いたものになっているこ
とにあります。言い換えれば、「
問題は原発事故による放射能汚染とその影響ではなく、
不安に感じる心にあるのだ」として、
恐怖や不安を感じる自由を抑圧し、
管理する政策がさらに強化されているのです。これは、
放射能汚染の問題を心の問題にすり替えることで、
加害者にではなく被害者に罪を着せる方法でこの問題に対処しよう
とするものと言え、
チェルノブイリ原発事故の被災地で行われた政策を彷彿させます。
特に、
政府やその意向を汲む専門家集団による健康リスクの過小評価にお
いては、「間違い」とは言えないまでも、
明らかに誤解を誘導するコミュニケーションの手法がとられてきま
した。「100mSv(20mSv)
以下での健康影響の証拠は見つかっていない/発生は考えにくい/
他の要因に隠れる/有意ではない」といった政府や「専門家」
の表現は、マスメディアによって「健康影響なし」
という見出しに置き替えられて報道されています。しかし、
こうした表現がこれまで環境省や「専門家」
によって訂正されてきたことはかつて一度もありません。
このため、大多数の市民の意識には「健康影響はない」
という言葉だけが刷り込まれ、
危機感が希薄化されているのが現状です。
2013年10月、
第3回市民科学者国際会議の円卓会議の冒頭で、
共同議長のセバスチャン・プフルークバイル博士は、「
私たちはどこまで許容するのか?」
と放射線防護の意義を問いました。
これまでの科学的な知見から得ることのできる被害予測はなされぬ
まま、
許容限度量がごく一部の専門家によって引き上げられています。
東京電力福島第一原子力発電所の現状に触れて、
博士は最後にこう述べています:
「私が聞いている範囲だけでも、状況は極めて危険であると思う。
IAEAの旗を振っていてもいいから、“鉛の鎧をつけた騎士”
が立ち上がり、残っている核燃料を取り出すのを助けてほしい。
そして、
子どもたちに私たちがこの会議で話している内容を伝えてほしい。
」
この危険がどれほどのものなのか、
私たちにはまだ十分な認識がありません。もしも国際原子力機関(
IAEA)が正しく認識しているのなら、教えてほしいものです。
燃料を取り出したとしてもそれをどこへ持って行くというのでしょ
う? 取り出すのではなくそのまま封印するとしても、
将来にわたって漏れないように封じ込めることは可能なのでしょう
か? 作業中の不慮の事態、さらなる地震・津波等の自然災害、
何らかの巨大な破壊力に襲われない保証はありません。
しかも驚くべきことに、事故後の被災地では、
今後起きるかも知れないそうした緊急時への具体的な対応策が示さ
れたことが、一度もないのです。
幸運に恵まれてそうした過酷な状況を迎えなかったとしても、
事故収束作業に取り組む作業員の被ばくとそれに伴う被害は、
最終的にどれほどのものとなるのでしょうか? そしてすでに被ばくしてしまった住民、
そして今後も放射能汚染の影響下にある地域の住民の被害を、
この社会はどこまで許容するのでしょうか?
現在のきわめて困難な深い闇の中から、新たな光を見出すために、
ここに第4回市民科学者国際会議を開催します。
みなさまのご参加とご協力をお願いいたします。
市民科学者国際会議