2015/03/22

政策条例:熱意に差 4年で4件の村 26年で2件の都

(自治体による放射能対策を進めるにあたって、こうした議会の働きにこれだけ差があることも知っておけたらと思い、シェアします。働く議会、議員を生み出すチャンスが、この春、各地で行われる「統一地方選挙」です。 子ども全国ネット)

毎日新聞 2015年03月22日 
http://mainichi.jp/select/news/20150322k0000m040130000c.html

自治体議会の活発度や改革度の指標とされる議員提案の「政策条例」を、過去4年間で4本可決した村議会がある。毎日新聞の全国自治体議会アンケートで4年間に2件以上可決した議会は全体のわずか6%。県議会や政令市議会が多い中で、唯一の村議会として異彩を放つ。一方、日本最大の自治体議会である東京都議会が設けた政策条例は平成以降の26年間で2件。対照が際立っている。

4件の政策条例を作ったのは、福島県西郷(にしごう)村議会だ。いずれも東京電力福島第1原発事故に関連する具体的な政策で、理念的な内容が多い他議会の政策条例に比べて目を引く。議会事務局によれば、議員提案による政策条例の成立は過去に例がなかったという。

「原発事故から5日後くらいの時期に、学校では子供たちが屋外でテニスや野球をしていた。村の対応に危機感を抱いた」。条例提案の中心的役割を担った佐藤富男議員(65)=無所属=はそう話す。

村は県南部の栃木県境にある。住民は2万人弱。日本で3番目に人口が多い村だ。東北新幹線新白河駅と東北自動車道白河インターチェンジを擁し、大企業の工場が多いため、財政は比較的豊かとされてきた。

福島第1原発から約80キロ離れているが、3月上旬でも役場前の線量計は毎時0.3マイクロシーベルト。除染の目安の同0.23マイクロシーベルトを上回る。

佐藤議員は7期目で、議長も経験したベテランだが、2007年福島県議選に自民党公認で出馬して落選し、東日本大震災当時は浪人中だった。11年8月の村議選で「放射能汚染から子供たちを守る」を公約にして再び村議となった。

その直後の同年9月に佐藤議員は「放射能対策特別委員会」の設置を提案、全会一致で承認された。正副議長を除く16議員全員が委員となり、委員長には佐藤議員が就任。東電への要望、与野党国会議員への陳情、賠償請求についての弁護士との勉強会などのほか、原発事故をめぐる「村民と議員の対話集会」も2回開催した。「議会はよく動いてくれたと思う」と、村に住むパート女性(46)は話す。

さらに議会は12年3月、「原子力損害賠償対策審議会条例」を全会一致で可決した。村民の東電への損害賠償請求について審議する第三者機関を設けるとの内容で、最初の政策条例だった。

翌年6月には、甲状腺や内部被ばくの検査ができる医療機関誘致のための融資制度などを定める「子ども診療所等誘致条例」が全会一致で可決。放射線量が局所的に高い「ホットスポット」の除染を村に義務づける「放射能障害防止のための環境保全に関する条例」も賛成多数で可決。

3本の政策条例はいずれも、佐藤議員が法律や既存の条例を参照しながら起草した。「毎日ネットを調べたり書類を読んだり、朝から晩まで大変だった」と振り返る。だが、条例は「開店休業」の状態だ。昨年3月に出された放射能対策特別委の報告書にはこう書かれている。「村長がこの条例による施策を執行しないことは誠に残念である」

背景には佐藤議員と佐藤正博村長(67)との対立がある。佐藤村長は条例を執行しないことについて「国や県がすでに手厚くやっていることであり、(条例の執行は)必要ない」と説明する。一枚岩で動いたかに見える村議会にも、村長派と反村長派の間に深い溝がある。昨年3月には村長選があり、佐藤村長が4選された。村長派の議員からは「佐藤議員の条例提案は村長追い落としのためだったのだろう」との声も漏れる。

地方自治体は、議員と首長がそれぞれ選挙で選ばれる「二元代表制」だ。本来は議会全体が首長のチェック機関であり、与党も野党もないというのが制度の趣旨だ。しかし現実には、首長選での支持関係から与野党に分かれることが多く、西郷村も例外ではない。3条例が成立した当時は「野党」が1人だけ多かったため、佐藤議員が主導権を握ることができたのだ。

「与党が1人でも多ければ、全部これですよ」と佐藤議員は、拳を下に向けて物を潰す仕草をしてみせた。「でも、村長に気兼ねして執行部提案に手を挙げるだけの議員なら、村民にますますそっぽを向かれてしまう。村民の声を聞いて、それを政策として実現させるのが議員の職責だと思う」

一方、村長与党会派代表の白岩征治議員(76)=無所属=は「我々は是々非々で対応している」と話す。審議会条例と診療所誘致条例には賛成した。「村民のことを考えれば、反対すべきではないと判断した」政策条例については「村長が気づかない部分を提案することはあってもいい。ただ、事前に村長の了解を取り付けないと。いくら条例を作っても村長が執行しなければ何の意味もないでしょう」

佐藤村長は、条例を議員が提案することについて「予算や規制を伴う条例は我々が提案する。議会には『乾杯条例』のような村の雰囲気を盛り上げるような条例をお願いしたい」と話す。

村議会は17日、4件目となる政策条例「子育て支援及び高齢者福祉推進基金条例」を全会一致で新たに可決した。議員定数を2人減らして16人とするのに合わせ、村民にその意義を示すために2人分の議員報酬額を福祉目的の基金として積み立てる−−という条例だ。原案は佐藤議員が提示した。佐藤議員は定数の4減、白岩議員は2減を主張していたが、委員会での協議の結果、佐藤議員が2減を受け入れ、白岩議員は政策条例に賛成することで合意が成立したのだ。

現在、議会は欠員1で、議長を除く与野党は8対8で同数。政策条例案の提出に積極的な議員の存在に加え、かつて体験したことのない災害と「与野党伯仲」の緊張関係が議会内の妥協を促し、多くの政策条例成立につながっていた。しかし、実効性のあるものにするには、首長とも一定の妥協が必要という現実も、西郷村の事例は示している。

 ◇制定阻む首長の権限

昨年自民党に属していた議員による女性蔑視のやじで注目を浴びた都議会。国内最大の自治体議会で議員待遇もいいが、政策条例に積極的とは言い難い。

平成に入り制定した一つ目は、10万人が犠牲となった東京大空襲の3月10日を「東京都平和の日」とする条例(1990年7月)。

二つ目は、西郷村と同じく東日本大震災が後押しした「省エネルギー推進条例」(2011年7月)だった。都民や事業者と都が協力して省エネに努めよう、という内容。民主党(当時比較第1党)と都議会生活者ネットが共同提案し、共産党が同調した。自民は「抽象的な行為規範」、公明党は「思いつきの単なるパフォーマンス」と反対した。少し前に自民党議員が1人急死しており、記名投票したところ可否同数。民主が出した議長の裁決により、紙一重の差で可決された。

制定にかかわった民主の都議は「予算提出権は知事(首長)のみが持ち、その手を縛るような条例は作れない。自然と理念が先行してしまう」と話し、政策条例作りは難しいとする。




0 件のコメント:

コメントを投稿