2015/03/24

福島は本当に安全か?

 福島は本当に安全か? 鼻血問題を政治活動に利用し逃げまくる卑劣な議員たち
2015年03月24日 
提供:週プレNEWS
http://yukan-news.ameba.jp/20150324-11/

福島第一原発や福島各地を訪れた主人公たちが、東京に戻ってから鼻血を流した描写をしたことで批判を浴び大騒動となった漫画『美味しんぼ』問題。

当時、安倍首相をはじめとする政治家は、大規模な調査も行なわないうちに「根拠のない風評だ」と断じた。

ところが、実は福島原発事故が起きた2011年、国会で「被災地で鼻血を出している子供たちがいる」と、当時与党の民主党を追及した政治家がいた。自民党の熊谷大氏、森まさこ氏、山谷えり子氏らだ。

しかし、いざ自民党が政権を握ると、党内からそんな声など途端に聞こえなくなってしまった。

この自民党の変節を彼らはどう考えているのか。本誌は10日間の回答期限を設けて3人に書面で質問を申し込んだ。結果、取材できたのは熊谷大氏のみ。彼は面談取材でこう話した。

「当時は、宮城の県南にある小学校の保健便りで、1年間に469人の頭痛、鼻出血の症状が出ていた。放射線の影響かどうかはわかりません。でも今後、健康に不安が出たり、症状として出てきた場合、しっかりと支援をする法的根拠が必要との考えで、子ども・被災者支援法を作ったのです」

そして、『美味しんぼ』騒動の際の安倍首相の発言に関してはこんな意見も述べた。

「もう少し寄り添った表現があってもよかったと思います。(鼻血を)風評だと言ってしまうと、不安に感じていた方は風評のひと言で済ませていいのかと感じる。そういう意味では(総理の発言は)厳しいなと感じます」

一方、森氏、山谷氏には何度も何度も回答要請をしたが、ついに回答は返ってこなかった。山谷議員の事務所は「担当者が今いない」と言い、担当者からの返信は一度たりともこなかった。森議員の事務所とは数回の電話でのやりとりの後、FAXで回答を送ってもらうことになったが結局、回答はこなかった。

自分たちが野党で攻撃する時は鼻血を利用し、与党になれば知らんぷり…。福島の人たちの健康被害など自分たちの政治活動の材料としか思っていないのだろうか。こんな議員が与党の一員として復興政策を担っているのが日本の現状だ。

では、福島を中心として放射能汚染度はどの程度になっているのか。2013年12月、国連科学委員会は報告書に日本の住民の集団実効線量はチェルノブイリ事故の約10~15%と記載。環境省の専門家会議はこの報告書の健康リスク評価が妥当とし、これが一般的に福島がチェルノブイリほど汚染されていないとする根拠のひとつになっている。

それが本当ならひとまず胸をなで下ろしてもいいのだが、これは数字のマジックにすぎないと指摘するのは、福島とチェルノブイリの比較研究をする瀬川嘉之氏だ。

瀬川氏は、国連科学委員会の統計が集団線量(平均線量×人数)で比較していることに着目した。つまり、日本全体と欧州全体で比べているため、人口が日本よりも数倍多い欧州のほうが掛け算の積が増え、集団実効線量は高くなる。

そこで、福島とその周辺の自治体ごとに区分けし直して計算したところ、多くの自治体が事故直後のチェルノブイリ周辺都市の汚染に匹敵することがわかったのだ。

事故後1年間で最も実効線量が高かったのは年間4.3~3.5ミリシーベルトを記録した福島市、二本松市、桑折町。この数値はチェルノブイリ原発事故で避難区域を除き最も汚染度の高かったベラルーシのゴメリと同じ区分けに入る。

次に高い3.5~1.5ミリシーベルトは22市町村にも上る。福島も避難区域は含まれていないが、区域外でも放射線量の高い場所に住み続けたことで、それだけ被曝量が増えてしまっている。

「ひとり当たりの平均値で被曝量をはじき出せば、福島の被曝線量がチェルノブイリより低いとは言えない。環境省の専門家会議も内心では福島の汚染がチェルノブイリよりも低いとは思っていないはず。だからこそ、できるだけ被曝を少なくする政策を行なってほしい」(瀬川氏)

だが現実は、住民を帰還させる方向に進んでいる。

チェルノブイリ事故では、人間の肺からプルトニウムとホットパーティクル(高濃度の放射性微粒子)が見つかっている。事故の際に大気中に飛び散ったプルトニウムが土壌に入り込み、それが農作業などで再び大気中に舞い上がり、肺に入ったと考えられているのだ。

1987年当時、ベラルーシ大学の放射線化学研究科教授のエフゲニー・ペトリャエフ氏が、交通事故や病死した約300人の肺を調べたところ約7割から0.01から4ミクロンの大きさのホットパーティクルが見つかった。ひとりの肺から最大で2万個ほども見つかった例もあったという。

当時、取材した朝日新聞の記者に対しペトリャエフ教授は「(ホットパーティクル)1個(が放つ放射線量の)平均を1億分の1キューリーと推定すれば、2万個あれば、あと何年か後にほぼ確実にがんを引き起こす」と答えている(※)

(※)『誕生前の死』(藤原書店)、『チェルノブイリ汚染大地』(朝日新聞出版)より引用

こうしたホットパーティクルは、実は福島でも見つかっている。市民が福島第一原発から約17kmほどの距離にある寺にダストサンプラーを設置し、昨年10月23日から11月30日までの間に集まったチリを感光したところ黒い点がいくつも浮かんだのだ。

現地で確認をした京都大学大学院工学研究科の河野益近氏と、写真の画像を可視化した元岡山大学医学部神経内科講師の美澄博雅氏はともに、この黒い点がホットパーティクルであると認めた。

河野氏は「多量のホットパーティクルを肺の中に取り込んでいる人がいることも考えられる」とした上で、行政の行なっている大気モニタリングにこう注文する。

「もし(ガンマ線よりも危険な)アルファ線やベータ線のみを放出するプルトニウム239やストロンチウム90などが確認されれば、現在の調査手法では住民の健康被害への影響を判定することは難しいのではないか。フィルターに付着した核種と濃度も調査してほしい」

原発事故から4年。いまだに原発内の汚染水は海に漏れ出し、メルトスルーした核燃料はどうなっているのかわからない。それなのに復興の旗印の下に放射能汚染の実態は覆い隠され、健康被害の心配さえ表立ってできない空気が福島には流れている。

『美味しんぼ』の中で、被曝が原因で鼻血を出したと描かれた元双葉町長の井戸川克隆氏が言う。

「私を含めた原発近隣の住民は原子炉建屋が爆発した瞬間に立ち会い、たくさんの被曝をしました。現に私は今でも鼻血が出ている。それについて県や政府にとやかく言われる筋合いはないのです。国や県は県民をうまく洗脳して『なんでもないんだ』と思わせようとしているから、私が放射能の影響で鼻血が出ると言ったら慌てました。それが『美味しんぼ』鼻血騒動の構図です。

よく考えてほしいのは今、福島で使われている『安全』や『風評被害』といった言葉は物理的、科学的な意味合いではありません。経済的な利益を守るために使われているだけなのです」

この先、放射線による健康被害で苦しむ人が出ないことを祈りたいが、国と県が本気で福島の住民の健康と安全を考えているのか疑わしい状況では、それは難しいのかもしれない。

(取材・文・撮影/桐島 瞬)

0 件のコメント:

コメントを投稿