2015/03/13
(評・映画)「小さき声のカノン――選択する人々」 福島の母親と共に悩んだ「記録」
2015年3月13日 朝日新聞
http://www.asahi.com/articles/DA3S11648509.html
「小さき声のカノン――選択する人々」福島の原発の放射能で汚染された地域に、残らざるを得ないと決めた人たちがいる。その人々は、安心してそうしているわけではもちろんない。だから除染作業などを熱心にやる。しかし容易に成果は上がらないのが現実だ。
放射能はとくに子供に危険だという。では子供を守るためにはどうしたらいいか、母親たちは悩む。これはそんな被災者の母親たちなどに主に取材したドキュメンタリーである。
福島の25年前に原発事故を経験しているチェルノブイリに行ってみる。そこではやはり若者の多くが今も健康の問題で悩んでいる。聞いていて不安であるが耳寄りな話もある。かつて「保養」と言ってこの地域の子供たちをしばらく北海道などのボランティアに預かってもらったことがある。放射能汚染のない土地で食事をして、体内に入ってしまった放射性物質を体外におし出したのだ。それを母親たちの連帯の力で、福島の子たちにもしてやれないか。
鎌仲ひとみ監督は、これまで何本も、原発や放射能についての映画を作ってきている。すでに分かっていることの解説ではなく、まだよくは分からないことについて、同じように真剣に手探りしながら考えている人々を訪ね、共に考える過程を記録してきた。今度もそうだ。
放射能汚染のある土地に暮らすことを選んで子供たちにすまないと悩んでいる福島のお母さんたちや、同じ問題を医師として考えてきているチェルノブイリの女医さん。かつてこの地方の子たちの「保養」に協力した経験を生かせるのなら喜んで、という北海道のおばさんたち。皆、同じこころでしっかりと結ばれた女性たちである。
見ていて不安の中に少し心強さも湧く。これは人間的な温かい共感の溢れてくる映画である。
(佐藤忠男・映画評論家)
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