2014/12/14

がん社会を診る甲状腺、対処慎重に 中川恵一

[「慎重に対処する」ことに異論はないけれども、「過剰医療」という視点ではなく、いかに対象者に負担なくもれなく実施して、予防することができるかと、甲状腺がんと診断されてしまった子どもと家族の自己決定を尊重しつつも、それを保証するだけのあらゆる支援が必要でしょう。東電と政府の責任において対処すべき「健診」について、国立大学という場に身を置く専門家が、このような「がんへの慎重な対処」とひとくくりにして語ることに違和感を感じます。]

 放射性物質を飛散させた東京電力福島第1原子力発電所事故に関して国連科学委員会が報告書を今年4月にまとめました。この中で、福島全体の甲状腺の被曝(ひばく)線量は、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故の60分の1以下と少ないため、「がん患者の増加は考えられない」とし、「福島はチェルノブイリではない」と結論づけています。

 しかし現実には、福島県内で小児の甲状腺がんが多数見つかっています。原発事故の被曝による健康への影響を調べている福島県の県民健康調査では、事故発生時18歳以下だった約37万人を対象に定期的な甲状腺検査を実施しています。これまでに受診した約30万人のうち、100人超が甲状腺がんやその疑いがあると判定されました。

 このうちがんと確定したのは半数強で、事故当時の平均年齢は約15歳、腫瘍の大きさは平均14ミリでした。これらのがんは事故の前からあった「自然発症型」のものと推定され、福島県も「被曝の影響とは考えにくい」としています。ただ、子供本人や家族などが心配するのは当然ですし、評価に関する専門家の議論も続いています。

 甲状腺がんの5年生存率はほぼ100%ですが、膵臓(すいぞう)がんでは2%にとどまるなど、がんは臓器ごとに悪性度が違い、できやすい年代も異なります。20代の前立腺がんはまずありませんが、甲状腺がんは若い世代にも多いのが特徴です。

 高齢者では、微小なものも含めるとほぼ全員に甲状腺がんがあるといわれます。高校生でも自然に発生する甲状腺がんは珍しくありませんが、甲状腺がんは治療を要する一部を除き、多くが放置しても大きくならない、あるいは自然に消滅するタイプです。

 先週紹介したように、甲状腺がん検診が広まった韓国は、2011年に甲状腺がんと診断された人の数が1993年の15倍に急増しましたが、早期に発見しても死亡者は減っていません。甲状腺がんと診断されたほぼ全員が手術を受けていますから、韓国では過剰な診断と治療が実施されているといえます。

 福島の小児甲状腺がんの健康調査でも、小さな甲状腺がんが発見された場合、経過観察を含めて慎重に対処することが大切でしょう。

(東京大学病院准教授)

2014年12月14日
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO80835530S4A211C1MZ4000/

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