2015/03/09

【社説】 東日本大震災四年 福島の苦しみ正面から

(しっかり原発事故子ども・被災者支援法を取りあげてくれています。被ばくから子どもを守るために、この法律を盾に粘り強く具体的施策を要求していきたいです。 子ども全国ネット)

2015年3月9日 東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015030902000142.html

原発事故という未曽有の災禍によって日常を壊された福島の人に十分な賠償や支援がされてきたとは言い難い。福島の苦悩を忘れてしまってはいないか。

原発事故収束のメドすら立たない福島県では、いまだ十二万人が県内外での避難生活を余儀なくされている。五年で二六・三兆円の復興予算の多くは道路や港湾などのインフラ整備が中心だ。目に見える部分の復興は進んでも、肝心な人々の生活の復興・再建は大幅に遅れている。

◆賠償責任果たす義務

古里に帰れず、先の暮らしを見通せない人々の苦悩は、時の経過とともに逆に深まっている。

新たな土地で生活の基盤を築くにはきちんとした賠償が必要となる。しかし、東京電力はこの間、賠償に誠実だったとは言えない。国の指導もしかりだ。

町の大半が帰還困難区域に指定された浪江町では二〇一三年春、町民一万五千人が月十万円の精神的慰謝料の増額を求める集団申し立てを原発ADR(裁判外紛争解決手続き)で行い、一律五万円増の和解案が示された。だが和解案には強制力がなく、東電は受け入れを拒み続けている。

申立人には高齢者も多く、すでに大勢の人が亡くなっている。

原発ADRは被災者に裁判という重い負担を負わせず、早期に賠償問題を解決するために導入されたものだ。その趣旨に照らして出された和解案だ。東電はこれ以上解決を遅らせてはならないし、国はADRの仲介に強制力を持たせる仕組みを作るべきだ。

ADRだけでは金銭賠償の解決が期待できないと、裁判所に訴える動きも相次ぐようになった。

「生業(なりわい)訴訟」と呼ばれる集団訴訟がそのひとつ。「故郷を返せ!生活を返せ!」と、北海道から福岡まで十七地裁・支部で精神的慰謝料の支払いが訴えられている。

◆広がる生業訴訟

「かながわ訴訟」の原告は、南相馬市小高区から横浜に避難した村田弘団長(72)ら百七十四人。七割は国が避難指示区域に指定した地域の人だが、三割は福島市や郡山市など避難指示区域外からの、いわゆる「自主避難者」だ。

国の線引きによらず、自らの判断で避難を決めたこの人たちには、たとえ被害の実態が同じでも避難指示区域の人に支払われる精神的慰謝料はない。避難生活費は自己負担、夫は福島に残り妻子が避難する二重生活者が多い。

賠償も慰謝料もなく、経済的に追い詰められる人々を「自らの選択だ」といって放置していいのか。村田さんらは自主避難者も含めた一律賠償を求めている。

「原発事故の時、どこに住んでいたかで国は賠償に差をつけた。でも日常生活や地域のつながりを突然奪われた痛みはみな同じ。被災者を分断してはならない」

国が定めた五年の集中復興期間の終了に歩調を合わせるように、東電は商工業者に対して支払う営業損害賠償も来年二月に打ち切る方針を示した。だが、避難指示区域にある事業者のうち、業務再開できたのは約半分。事故前の水準に戻ったのは皆無だ。原発禍からの回復の困難さは想像を絶する。

国や東電は一刻も早く賠償を終わらせ、復興の実績を作りたいようだが、一定の時間がたったというだけで賠償を打ち切るのは、現実を見ていない。被災者の切り捨てというほかない。

復興庁が発表した住民意向調査では、大熊、双葉、富岡、浪江の原発周辺四町で、避難指示解除後に「地元に戻りたい」と考えている人は一~二割にとどまった。飯舘村でも三割だ。

古里に帰りたいと願う高齢者の思いは尊重すべきでも、除染に限界があることもわかった。放射線量はどこまで下がるのか。仕事はあるのか。人口減少した町で経済、医療、教育は成り立つのか。不安な場に戻ることは、子育て世代には考えられなくなってもいる。「帰還ありき」の復興計画にこだわるには無理がある。

今立ち返るべきなのは、大震災の一年後に全国会議員の賛成で成立した「子ども・被災者支援法」の理念だ。

◆「避難する権利」こそ

チェルノブイリ法をお手本にした同法は「避難する権利」を認めていた。地元を離れて移住した人にも、個別のニーズに沿って、生活や医療、教育、就労などの支援を行うことを求めていた。

仕事がなくて働く意欲を失ったり、妻子との別居で夫婦の不仲や離婚に直面する人も多い。子どもの心も傷ついている。

苦境を乗り越え、みんなが安心して暮らせるようになった日が福島の復興の日だ。一人一人の生活再建を息長く見守る覚悟がいる。私たちはそのことを忘れてはならないはずだ。


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