2015/03/11

福島/若い女性、言えない悩み共有

 
毎日新聞 2015年03月11日 東京朝刊
http://mainichi.jp/shimen/news/20150311ddm013040009000c.html

 ●相談電話鳴り続け

福島県で若い女性を支援しようと、地元の女性らが立ち上がった。電話やメールの相談窓口の開設に向けて、勉強会を重ねている。東京電力福島第1原発事故では、幼い子どもや母親、高齢者の被害が注目され、10〜20代の女性たちの声はかき消された。放射能への不安や環境の変化によるストレスなど「誰にも言えなかった」思いに、ようやく光が当たろうとしている。

3月上旬の夜。県内のビルの一室に6人の女性が集まった。午後10時になった途端、PHSの着信が鳴る。東京都内で悩みを抱える少女らを支援するNPO「BONDプロジェクト」メンバー2人が、電話の向こうの声に耳を澄ませた。「私なんて生きる価値がない」。少女の切実な思いを受け止め、数十分が経過。最後は受話器から笑い声が聞こえた。電話を切ると、間を置かずに着信。その繰り返しが「相談時間」の翌日午前4時まで続いた。

この日、BONDの相談電話の手法を学ぶため、応対の様子を関係者が見学した。立ち会った「女子の暮らしの研究所」(郡山市)代表の日塔(にっとう)マキさん(31)は「今の福島に絶対に必要だと思った。家族や友だちにも相談できずに悩んでいる女の子は多いから」と話す。

日塔さんは震災後、千葉県に移り住んだ。放射能に関するさまざまな情報が飛び交う中、福島在住や出身の若い女性が集まる場を友人たちと設けた。ほとんどが初対面だった。参加した19歳の女性がつぶやいた。「私、見捨てられたんですかね? 私だって将来は子どもを産みたいのに」

当時、自治体による内部被ばく検査は18歳までが無料。一緒に暮らす妹との「線引き」に心を痛めていた。その後日塔さんは「福島の現状を発信したい」と県内に戻り、研究所を設立した。「研究員」は社会人や学生ら20代を中心に約35人。語り合うイベントや県外への保養ツアーなどを開催している。今後は相談電話の広報などを担う予定だ。

 ●結びつきネックに

若い女性の相談窓口の必要性に、早くから気付いていた人がいる。南相馬市で学習塾を主宰する番場さち子さん(54)。震災後、少女を付け狙うような事案や不審者の出没情報が急に増えたように感じた。周辺の自治体では、「夜間の外出が怖い」といううわさも聞いた。

昨夏、思春期の子どもたちの相談を電話やメールで受け付ける「エンジェル・ガールズ」を始めた。深刻な悩みが次々と寄せられた。「親類や住民同士の結びつきが強い土地だから、顔見知りでは打ち明けられないこともある」。新たに始まる相談電話と連携するつもりという。

その一環として、番場さんの学習塾で今年2月下旬、性暴力やDV(ドメスティックバイオレンス)・ストーカーに関する勉強会が開かれた。参加者は番場さんの友人や、今後連携する予定の全国的な相談窓口「よりそいホットライン」の相談員ら。女性支援の専門家が講師を務め「性暴力の被害者から相談を受けたら、『あなたは悪くない』とはっきり伝えて。DVやストーカーで悩む女性には『別れていいのよ。警察にも相談して』と助言すればいい」と訴えた。

 ●安心な暮らしを

この4年間に福島の若い女性が人知れず抱えてきた悩みを明らかにした調査がある。BONDなどが昨年8月から現地におもむき、震災時10〜20代だった女性20人をインタビューしたものだ。中学生から会社員まで幅広く話を聞いた。BOND代表の橘ジュンさんによると「私の悩みは大したことない。みんな困っていたから」と振り返る女性が多かったという。

調査は同世代の女性がインタビューを担当し、何気ない会話から、父親によるDVや恋人の死などの話を聞き出した。共通した悩みも多かった。避難所では外にある真っ暗なトイレにおびえ、生理用品が欲しくても恥ずかしくて言い出せなかった。「女性」という理由で、高齢者の世話を頼まれたり、子どもを連れて県外に避難した同僚の仕事の穴埋めに入ったりして「嫌だ」と思っても口にできなかったという。調査報告書は「声を上げられなかっただけで、問題がなかったわけではない」とまとめた。

福島の若い女性たちが、地元で安心して暮らしていけるよう、支援の体制作りが少しずつ進んでいる。




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