2015/03/10

【日めくり】47ニュースより

2015年3月10日 47ニュース
http://www.47news.jp/47topics/himekuri/2015/03/post_20150310170534.html

▽3.11から歩み始めて
大震災から4年。福島第1原発の事故の後、放射性物質による食物汚染への不安が高まり、翻弄(ほんろう)される生産者と消費者の姿を取材したことがある。前とは変わってしまった世界で、前に進もうと足を止めずに歩き続けている人たちのその後を、ここでも少し紹介できれば…と思う。

事故の後、筆者が生産者の声を聞きに訪れたのは、福島でなく、原発から約350キロメートル離れた静岡市のお茶畑。支局時代の知り合いからの連絡がきっかけだった。ここで有機栽培茶を作っている農家が、消費者のため畑の状況を把握しようと放射性物質の検査をしてみたところ、茶葉から当時の法律で暫定的に定められた基準値を大きく超える放射性セシウムが検出された。出荷自粛と自主回収を求められ、静岡茶のブランドは揺らいだ。静岡有機茶農家の会によれば、4年を経た今も、かつての勢いはなかなか回復できないという。

同会では「技術を磨いて消費者と信頼関係を築くしかない」と品質で静岡茶を復活させようと研究を重ねてきた。そして昨年秋に有機栽培だからこそ可能と自負する高ビタミンのお茶を「駿河天狗の養生煎茶」と名付け、商品化した。香りがよい、ふんわりとした甘みが感じられるお茶だ。お茶のうまみを構成しているアミノ酸は熱湯に入れると損なわれるため、新茶は湯を冷まして入れるのがセオリーだが、このお茶の甘みは熱湯で入れても損なわれないという。今年は多くの消費者と契約栽培にこぎつけたいと同会が期待をかける自信作だ。

消費者サイドの声として取材したのは、首都圏で乳児を子育て中の母親たちだった。不安に駆られながら、そのことを話せる環境になく、一人で苦しんでいる人、自分なりの判断基準で食べ物を選ぶ人、さまざまな声を聞いた。福島から東京に「避難」していた子育て中の母親にも出会ったが、名前を出して取材に応じることはできないと言われた。

首都圏では事故は風化しつつあるようだが、福島に残ったものの子育てに不安を感じ、苦しんできた母親たちの「現在」は、公開中のドキュメンタリー映画「小さき声のカノン―選択する人々」の中で鎌仲ひとみ監督がすくい取っている。同作では「子どもを被ばくから守りたい」と、全国から寄せられてくる支援の野菜を園児の保護者に配り、子どもを一定期間、北海道などに「保養」させ、地域の除染も自ら行うなどの活動を続けている母親たちが登場する。

「福島で撮影させてくれる人が少なかった。言っちゃいけないということになっているから…と。この映画に出てくれたのは貴重な人たちでした」と鎌仲監督は言う。被ばくが心配だが、学校が始まるから福島に帰ってきたという母親たちに、鎌仲監督は「何で帰ってきたのか。学校に行かなきゃいけないの?」と質問する。選択肢は、自分でも気がつかないところにあるのではないかと、映画をみている観客にも問いかけてくるのだ。「自分で考えて自分で動くという力が個々人にまだまだ眠っているのではないかと思う」と鎌仲監督は言う。

大震災から4年がたった。多くの人々がそれぞれの場所で、「考えて、動き始めている」はずだ。

 (47NEWS編集部)

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